朝起きられないのは"怠け"ではありません 〜新学期前に知っておきたい起立性調節障害(OD)〜
― 理事長より、はじめに ―
こんにちは。医療法人社団 正友会 理事長の五藤 良将です。「夏休みに入ってから、子どもが昼過ぎまで起きられなくなった」「新学期が近いのに、朝になると頭痛や立ちくらみで動けない。夜は元気なのに……これって怠けでしょうか?」――夏休みの後半から新学期にかけて、外来でこうしたご相談が毎年ぐっと増えます。
結論からお伝えします。「朝起きられない・立ちくらみ・午前中の不調」は、怠けや気持ちの弱さではなく、自律神経による血圧調節がうまく働かなくなる「起立性調節障害(OD)」という、れっきとした体の病気の可能性があります。中学生の約10%にみられるありふれた疾患で、適切な診断と対策で必ず良い方向に向かいます。
本記事では、ODが起こるメカニズム、ご家庭でできるセルフチェック、夏休み明けに悪化しやすい理由、水分・塩分・立ち方などの具体的な対策、そして当院(旧・浜クリニックとして地域に親しまれてきた五良ファミリークリニック センター南)での診断・治療の流れまで、保護者の方が「今日から動ける」情報をまとめてお届けします。
📖 目次
1. 「朝起きられない」は怠けなのか?――起立性調節障害(OD)という病気
起立性調節障害(OD:Orthostatic Dysregulation)は、立ち上がったときに血圧や心拍を調節する自律神経の働きがうまくいかず、脳への血流が不足してしまう病気です。思春期のお子さんに非常に多く、日本小児心身医学会のガイドラインでは、軽症例を含めると小学生の約5%、中学生の約10%にみられるとされています。決して珍しい病気ではなく、1クラスに数人はいる計算です。
つらいのは、周囲から「怠けている」「夜ふかしのせい」「気合いが足りない」と誤解されやすいことです。ODのお子さんは午前中に症状が強く、午後から夕方にかけて体調が回復するため、「夜は元気なのに朝だけ起きられない」という一見矛盾した状態になります。しかしこれはODの典型的なパターンそのものであり、本人の意思ではコントロールできません。🧠
📊 数字で見る起立性調節障害──データが示す事実
- 軽症を含めると小学生の約5%・中学生の約10%にみられる(日本小児心身医学会ガイドライン)
- 不登校のお子さんの約3〜4割にODが併存すると報告されている
- ODのお子さんの多くが頭痛を訴え、片頭痛との合併も少なくない
- やや女子に多く、10〜16歳の思春期に発症のピークがある
大切なのは、「本人が一番つらい」という視点です。「学校に行きたいのに体が動かない」という葛藤を抱えたまま叱責が続くと、自己肯定感が下がり、二次的に不安や抑うつ、不登校につながることもあります。まずは「これは体の病気かもしれない」と大人が気づいてあげることが、回復への第一歩です。
2. なぜ起こる?自律神経と血圧調節のメカニズム
人が横になった状態から立ち上がると、重力によって血液は下半身に集まろうとします。健康な体では、自律神経(交感神経)が瞬時に下半身の血管をキュッと締め、心拍数をわずかに上げることで、脳への血流を一定に保つ仕組みが働きます。この調節は本人が意識しないうちに、立ち上がった直後の数秒間で行われています。
ODでは、この血管を締める指令がうまく伝わらない、あるいは遅れるために、立ち上がったときに血圧が下がったり、それを補おうと心拍数が過剰に上がったりします。その結果、脳血流が不足し、立ちくらみ・めまい・頭痛・倦怠感・失神といった症状が出るのです。💡
💡 なぜ思春期に多いのか?
思春期は身長が一気に伸び、心臓と脳の距離が急に離れる時期です。体の急成長に自律神経の発達が追いつかず、血圧調節が一時的に不安定になりやすいと考えられています。さらに第二次性徴期のホルモン変化、学校生活の心理的ストレスが重なることで症状が強まります。つまりODは「成長の過程で誰にでも起こりうる調節のアンバランス」であり、体質や育て方の問題ではありません。
また、朝に症状が強いのは、睡眠中に優位だった副交感神経から交感神経への切り替えがスムーズにいかないためです。ODのお子さんでは体内時計が後ろにずれやすく、「夜眠れない → 朝起きられない → 午後に回復して夜また眠れない」という悪循環(いわゆるフクロウ型の生活リズム)に陥りやすいことも知られています。
3. こんなサインはODかも――ご家庭でできるセルフチェック
日本小児心身医学会のガイドラインでは、次のような症状のうち3つ以上当てはまる場合(または2つでも症状が強い場合)にODを疑い、医療機関での評価をすすめています。お子さんの様子を思い浮かべながらチェックしてみてください。👀
| チェック項目 | よくある訴え方 |
|---|---|
| 立ちくらみ・めまい | 「立ち上がるとクラッとする」「目の前が暗くなる」 |
| 起立時の気分不良・失神 | 「朝礼で気分が悪くなる」「倒れたことがある」 |
| 朝起きられず午前中調子が悪い | 「何度起こしても起きられない」「午後は元気」 |
| 頭痛 | 「午前中にズキズキ・重い感じの頭痛が続く」 |
| 動悸・息切れ | 「階段や入浴でドキドキが強い」 |
| 倦怠感・疲れやすさ | 「少し動くと疲れる」「だるくて横になりたがる」 |
| 食欲不振・腹痛 | 「朝食が食べられない」「よくお腹が痛くなる」 |
| 乗り物酔い・顔色不良 | 「車酔いしやすい」「朝は顔色が青白い」 |
⚠ こんなときは早めに受診を
失神を繰り返す、けいれんを伴う、胸痛がある、安静時にも動悸が強い、体重減少が続く――こうした場合はOD以外の心臓・神経・内分泌の病気(不整脈、てんかん、甲状腺疾患など)を除外する必要があります。自己判断せず、早めに医療機関へご相談ください。
4. ODの4つのタイプと「新起立試験」でわかること
ODの診断で中心となるのが「新起立試験」です。10分間安静に横になったあとに起立し、その後の血圧と心拍数の変化を約10分間かけて測定します。血圧の回復の仕方や心拍の上がり方のパターンから、ODは大きく4つのタイプに分類されます。タイプによって治療方針が変わるため、この検査はとても重要です。📊
🩸 ① 起立直後性低血圧(INOH)
立ち上がった直後に血圧が大きく下がり、回復が遅れるタイプ。立ちくらみ・ふらつきが主な症状で、ODの中で最も多いタイプです。
💗 ② 体位性頻脈症候群(POTS)
血圧は保たれるものの、起立後に心拍数が過剰に増えるタイプ。動悸・倦怠感・頭痛が目立ち、近年は成人でも注目されています。
😵 ③ 血管迷走神経性失神(VVS)
起立中に突然血圧が下がり、失神やその前兆(気分不良・冷や汗)を起こすタイプ。朝礼など長時間の起立で起こりやすいのが特徴です。
⏳ ④ 遷延性起立性低血圧
起立直後は正常でも、立ち続けているうちにじわじわと血圧が下がっていくタイプ。授業中や通学中に徐々に気分が悪くなります。
当院では問診・診察に加えて、必要に応じて血圧・心拍の起立試験、血液検査(貧血・甲状腺機能など)、心電図を組み合わせ、「本当にODなのか」「他の病気が隠れていないか」を丁寧に確認したうえで診断します。頭痛外来・神経内科を併設しているため、頭痛やめまいが強いお子さんの評価を同時に行えるのが当院の強みです。🏥
5. なぜ夏休み明け・新学期に悪化するのか
ODは1年を通してみられますが、外来では夏休み後半から9月にかけて相談が急増します。これには、体・生活リズム・心理の3つの要因が重なっています。🌻
🌡 ① 暑さによる脱水と血管拡張
夏は汗で水分と塩分が失われ、循環血液量が減少します。さらに暑さで血管が広がるため血圧が下がりやすく、ODの症状が強く出ます。
🌙 ② 生活リズムの後ろ倒し
夏休み中の夜ふかし・朝寝坊で体内時計が後退。もともと後ろにずれやすいODのお子さんでは、始業時間に体が対応できなくなります。
💭 ③ 新学期の心理的ストレス
ODは心理社会的ストレスで悪化する「心身症」としての側面をもちます。新学期への不安や緊張が自律神経の乱れに拍車をかけます。
逆にいえば、新学期が始まる前の「今」こそ対策の絶好のタイミングです。起床時刻を毎日15〜30分ずつ前倒しして体内時計を戻し、水分・塩分をしっかり補給しておくことで、始業初日のつまずきを大きく減らすことができます。始業直前になって慌てるのではなく、1〜2週間かけて助走をつけてあげましょう。🏃
6. 見逃してはいけない「ODに似た病気」――貧血・甲状腺・睡眠の問題
「朝起きられない・だるい・立ちくらみ」という症状は、実はOD以外の病気でも起こります。ODと決めつける前に、治療法がまったく異なる病気を除外することが診断の鉄則です。とくに次の4つは思春期のお子さんで頻度が高く、注意が必要です。🔍
| 鑑別すべき病気 | ODとの見分けのヒント | 調べ方 |
|---|---|---|
| 鉄欠乏性貧血 | 時間帯に関係なくだるい、顔色不良、月経のある女子に多い | 血液検査(ヘモグロビン・フェリチン) |
| 甲状腺機能の異常 | 動悸・体重変化・汗・むくみなど全身症状を伴う | 血液検査(TSH・FT4) |
| 睡眠の病気(睡眠相後退・無呼吸など) | 睡眠時間を確保しても日中の強い眠気、いびき | 睡眠日誌・必要に応じ睡眠検査 |
| うつ・不安などこころの不調 | 気分の落ち込み・興味の喪失が続く、食欲や体重の変化 | 問診(当院は心療内科を併設) |
実際には「ODと鉄欠乏の合併」「ODと片頭痛の合併」のように複数の要因が重なっているお子さんも少なくありません。当院は内科・小児科・神経内科・心療内科を併設しているため、こうした「重なり」をひとつの窓口でまとめて評価できます。
7. ご家庭でできる対策――水分・塩分・立ち方・生活リズム
ODの治療の土台は薬ではなく、非薬物療法(生活の工夫)です。日本小児心身医学会のガイドラインでも、まず生活指導から始めることが推奨されています。今日から始められる具体策をまとめます。💪
🥤 ① 水分と塩分をしっかり摂る
- 水分は1日1.5〜2Lを目安に。朝起きたらまずコップ1杯の水から始めましょう。
- 塩分は1日10g程度まで増やすことが推奨されます(ODのお子さんの場合。高血圧の方は当てはまりません)。みそ汁やスープを1品足すのが手軽です。
- 暑い時期は経口補水液やスポーツドリンクの活用も有効です。
🚶 ② 立ち方・過ごし方のコツ
- 立ち上がるときは頭を下げたまま、30秒ほどかけてゆっくりと。いきなり頭を上げないのがポイントです。
- 長時間の起立では足をクロスさせる・足踏みをすると血液が下半身にたまりにくくなります。
- 症状が強い時期は弾性ストッキングの着用も効果的です。
- 日中はできるだけ横にならない(横になる時間が長いほど自律神経の調節力が落ちます)。
🌅 ③ 新学期に向けた生活リズムの整え方
- 起床時刻を毎日15〜30分ずつ前倒しし、1〜2週間かけて学校のある日のリズムへ。
- 朝起きたらカーテンを開けて朝の光を浴びる(体内時計をリセットする最強のスイッチです)。
- 就寝前1時間はスマートフォンの画面を見ない。ブルーライトと動画の刺激は入眠をさらに遅らせます。
- 散歩など軽い運動を毎日15〜30分。筋肉、とくにふくらはぎは「第二の心臓」として血液を心臓へ戻すポンプの役割を果たします。
💡 ご家族へ――いちばん大切な「声かけ」
「怠けないで」「気合いで起きなさい」という叱責は、症状を改善させないばかりか、お子さんを追い詰めてしまいます。「これは体の病気。一緒に治していこう」と伝えるだけで、お子さんの表情が変わります。病気を正しく理解することそのものが治療の一部です。
8. 医療機関での治療――薬物療法と学校との連携
生活の工夫だけで改善が不十分な場合や、中等症以上の場合には、薬物療法を組み合わせます。代表的なのはミドドリン塩酸塩(血管を締めて血圧の低下を防ぐお薬)で、タイプや症状に応じて漢方薬(苓桂朮甘湯・半夏白朮天麻湯・補中益気湯など)を使うこともあります。効果の判定には数週間単位の時間がかかるため、焦らず続けることが大切です。💊
同じくらい重要なのが学校との連携です。診断がつけば、診断書や学校への情報提供書を通じて、遅刻・保健室登校・体育や朝礼の配慮など、「症状に合わせた登校の仕方」を学校と一緒に設計できます。「毎朝1時間目から完璧に出席する」ことをゴールにするのではなく、まずは体調に合った形で学校とのつながりを保つことが、長期的な回復への近道です。
📊 経過の見通し――「いつ治るの?」に対する答え
ODは適切な対応をすれば予後は良好です。軽症であれば数ヶ月で改善することが多く、日常生活に支障のある中等症以上でも、体の成長とともに高校生年代までに大多数が改善していきます。一方で、対応が遅れて不登校が長期化すると回復にも時間がかかる傾向があるため、「早く気づいて、早く対策を始める」ことが何よりの近道です。
🏥 当院のOD診療の強み
- 内科・小児科・神経内科・頭痛外来・心療内科を併設――ODに合併しやすい頭痛・めまい・こころの不調までワンストップで評価
- 血液検査・心電図・起立時の血圧測定で貧血・甲状腺・心疾患などの鑑別を丁寧に実施
- 火曜午前は心療内科専門外来――ストレス・不安が強いケースは専門医と連携
- 土曜も9:00〜14:00(休憩なし)で診療――平日は学校がある中高生も受診しやすい体制
- センター南駅徒歩9分・駐車場4台。日祝は姉妹院・白金高輪のオンライン診療をご案内
9. 大人にも起こる「立ちくらみ」――POTSと当院の診療体制
「起立性調節障害は子どもの病気」と思われがちですが、体位性頻脈症候群(POTS)は成人にもみられます。とくに感染症のあとに動悸・立ちくらみ・強い倦怠感が長引くケースは近年広く知られるようになり、20〜40代の女性を中心に受診が増えています。「立つと心臓がバクバクする」「朝の会議で気分が悪くなる」といった症状が続く場合、単なる疲れや自律神経の乱れと片付けず、一度評価を受ける価値があります。
また、中高年以降の立ちくらみは、糖尿病による自律神経障害、降圧薬・利尿薬の影響、パーキンソン病などの神経疾患が原因のこともあります(詳しくは後述の3軸クロスポイントで解説します)。立ちくらみは年代によって原因がまったく異なる症状です。当院は神経内科・糖尿病内科・心療内科を併設しているため、お子さんから祖父母世代まで、ご家族のどの年代の「立ちくらみ」もまとめてご相談いただけます。👨👩👧👦
🔁 3軸クロスポイント:「立ちくらみ・自律神経」を「糖尿病」「認知症」「抗加齢」の視点でとらえる
当院が大切にしている「3軸アプローチ」(糖尿病×認知症×抗加齢)の視点で見ると、「立ちくらみ」という一つの症状が、思春期から高齢期まで、世代をまたいでつながっていることが見えてきます。お子さんのODをきっかけに、ご家族全員の自律神経と血圧を見直すチャンスにしていただければと思います。
🩸 軸1: 糖尿病と「大人の起立性低血圧」
🧠 軸2: 高齢者の立ちくらみは「転倒・認知症」のリスクサイン
🌱 軸3: 抗加齢医学からみた「自律神経の体力」
10. 関連ブログ・関連クリニック
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11. よくあるご質問(FAQ)
Q1. 「怠け」や「夜ふかしのせい」とどう見分ければいいですか?
A. ポイントは「本人が起きようとしても起きられないか」「立ちくらみ・頭痛・気分不良など体の症状を伴うか」「午後〜夜に回復するパターンか」の3点です。ゲームなどで自発的に夜ふかしして朝眠いだけなら生活習慣の問題ですが、就寝を試みても眠れず、朝は体が動かないなら ODの可能性があります。判断に迷う場合こそ、一度受診して起立試験などで客観的に評価することをおすすめします。
Q2. 何科を受診すればいいですか?当院で診てもらえますか?
A. まずは小児科(中高生も含む)や内科で大丈夫です。当院は内科・小児科に加えて神経内科・頭痛外来・心療内科を併設しており、ODの評価(起立時の血圧測定・血液検査・心電図など)から、合併しやすい頭痛やこころの不調のケアまで一貫して対応できます。土曜も9:00〜14:00まで診療していますので、学校を休まずに受診いただけます。
Q3. 学校は休ませたほうがいいのでしょうか?
A. 「完全に休む」か「無理して全部出る」かの二択にしないことが大切です。午後からの登校、保健室の利用、体育や朝礼の配慮など、症状に合わせた中間の選択肢を学校と相談しましょう。診断書や情報提供書の作成もお手伝いします。学校とのつながりを細くても保つことが、回復後の復帰をスムーズにします。
Q4. いつごろ治りますか?高校・受験が心配です。
A. 軽症なら数ヶ月、中等症以上でも体の成長とともに高校生年代までに大多数が改善します。大切なのは、症状のある期間を「失われた時間」にしないことです。体調の良い時間帯を活かした学習計画や、通信制・定時制も含めた進路の選択肢を早めに考えることで、受験期への不安はかなり軽くなります。焦らず、しかし放置せず、が合言葉です。
Q5. 大人でも起立性調節障害になりますか?
A. なります。とくに体位性頻脈症候群(POTS)は20〜40代の女性にもみられ、感染症のあとに発症・悪化するケースが知られています。また中高年以降の立ちくらみは、糖尿病性自律神経障害・降圧薬の影響・パーキンソン病など別の原因も考えられます。年代を問わず、続く立ちくらみはご相談ください。
執筆|医療法人社団 正友会 理事長 五藤 良将(日本抗加齢医学会専門医・日本糖尿病協会登録医)
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理事長 五藤 良将
