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早期アルツハイマー病治療薬  レケンビ™️(一般名:レカネマブ)、ケサンラ™️(一般名:ドナネマブ)

[2026.06.19]
 
 
EARLY ALZHEIMER'S TREATMENT

早期アルツハイマー病の新しい治療薬
〜レケンビ®(レカネマブ)とケサンラ®(ドナネマブ)をやさしく解説〜

五良ファミリークリニック センター南 院長・篠原 伸顕(神経内科)が執筆し、医療法人社団 正友会 理事長・五藤 良将(日本抗加齢医学会専門医)が監修。「原因に働きかける」新しい認知症治療薬の仕組み・対象・費用・副作用を、ご家族の目線でわかりやすくお伝えします。

レカネマブ
ドナネマブ
軽度認知障害(MCI)
認知症外来

「最近、親の物忘れが増えた」「新しい認知症の点滴があると聞いたが、うちの家族も受けられるのか」――旧・浜クリニックの時代から地域の皆さまに親しまれてきた当院にも、こうしたご相談が大きく増えています。

結論からお伝えします。レケンビ®とケサンラ®は、アルツハイマー病の「原因物質」に直接はたらきかける初めてのタイプの薬で、効果が期待できるのは “ごく早期” の段階だけ。だからこそ「気づいたら、できるだけ早く相談する」ことが何よりも大切です。

本記事は、神経内科を専門とする当院 院長の篠原 伸顕が執筆し、抗加齢医学の視点から私(五藤)が監修しました。2剤の仕組み・対象・費用・副作用(ARIA)から、2025年の最新動向、そして「当院で何ができるのか」までを、専門用語をかみくだいてご説明します。📚

📖 目次

  1. 認知症とアルツハイマー病 ― 知っておきたい数字
  2. アルツハイマー病はなぜ起こる? ― アミロイドβカスケード
  3. 「原因」に働きかける新しい治療薬の登場
  4. レケンビ®(レカネマブ)とは
  5. ケサンラ®(ドナネマブ)とは【2025年 用量改訂】
  6. 2剤をくらべる早見表
  7. 治療を受けられる方の条件 ―「早期」が鍵
  8. 副作用「ARIA」を正しく知る ― APOE遺伝子とMRI
  9. 費用と高額療養費制度 ― 実際の自己負担は?
  10. 当院でできること ― 紹介と継続点滴という橋渡し
  11. 今後の展望 ― レケンビ皮下注(自己注射)という選択肢
  12. 関連ブログ・関連クリニック
  13. よくあるご質問(FAQ)
  14. 🔁 3軸クロスポイント(糖尿病×認知症×抗加齢)

1. 認知症とアルツハイマー病 ― 知っておきたい数字 🧓

認知症とは、記憶力・判断力・社会への適応力といった「認知機能」がだんだんと低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態を指します。原因となる病気はいくつもありますが、その過半数を占める最も多い原因がアルツハイマー病です。

📊 認知症は「特別な病気」ではありません

厚生労働省の推計では、2025年時点で高齢者の認知症の方は700万人を超えるとされています。これは高齢者の約5人に1人国民の約17人に1人にあたる数字です。後期高齢者の増加とともに、医療・介護・経済への負担はますます大きくなると見込まれています。

社会全体の課題であると同時に、これは決して「他人事」ではありません。ご自身、ご両親、配偶者、親戚――身近な誰かが認知症になれば、ご本人だけでなくご家族の負担も大きくなります。だからこそ、「正しく知って、早く動く」ことが、ご本人とご家族の将来を守る第一歩になります。

2. アルツハイマー病はなぜ起こる? ― アミロイドβカスケード 🧠

アルツハイマー病は、脳の中でアミロイドβ(Aβ)というたんぱく質が異常にたまることが引き金になると考えられています。この「たまり方」には、はっきりとした順番(カスケード=滝のように連なる流れ)があります。

🔁 Aβがたまっていく流れ

アミロイド前駆たんぱく質(APP)
 ↓
モノマー(単体)
 ↓
オリゴマー(少数が集まった塊)
 ↓
プロトフィブリル(さらに集まった毒性の強い塊)
 ↓
フィブリル(アミロイド繊維)
 ↓
Aβプラーク(いわゆる「老人斑」)の蓄積

最終的にできあがるAβプラーク(老人斑)が神経細胞を傷つけ、神経細胞のはたらきが落ち、数が減り、やがて脳の萎縮が進んでいきます。逆にいえば、この流れのどこかを断ち切ることができれば、アルツハイマー病の進行を遅らせられる――これが新しい治療薬の発想の出発点です。

💡 「どの塊が悪さをするのか」を教えてくれた2つの遺伝子変異

どの段階のAβがとくに神経に毒性を持つのかは、まれな遺伝子変異の研究からヒントが得られました。2001年にスウェーデンのLannfeltらが報告したArctic(アークティック)変異は、老人斑(プラーク)の沈着はむしろ弱い一方で、プロトフィブリルの形成を促進し、脳の糖代謝異常・脳萎縮・認知機能障害を引き起こすと考えられています。また2008年に日本のTomiyamaらが報告したOsaka(大阪)変異は、プラークを作らずにオリゴマーの形成を促進して神経が脱落する性質を持つとされます(エーザイ資料より)。これらは「プラークになる前の小さな塊こそ毒性が強い」可能性を示し、薬の標的を考えるうえで重要な手がかりとなりました。

3. 「原因」に働きかける新しい治療薬の登場 🌱

これまでのアルツハイマー病の薬(ドネペジルなど)は、症状をやわらげる「対症療法」が中心でした。これに対して、レケンビ®とケサンラ®はAβそのものを脳から取り除き、病気の進行を遅らせることをねらう、まったく新しいタイプの薬(抗アミロイドβ抗体薬)です。点滴で投与します。

🏥 国内での発売時期

レケンビ®(一般名:レカネマブ)/エーザイ … 2023年12月発売
ケサンラ®(一般名:ドナネマブ)/日本イーライリリー … 2024年11月発売

どちらも対象は早期アルツハイマー病や軽度認知障害(MCI)の段階です。「進行してしまってから」では効果が期待できないため、“早く見つけて、早く始める”ことが治療の前提になります。

4. レケンビ®(レカネマブ)とは

レケンビ®の最大の特徴は、毒性の強い「プロトフィブリル」に結合して脳内から取り除く点にあります。プラークになる手前の塊を狙い撃ちするイメージです。

💉 投与方法のポイント

・標的:Aβプロトフィブリルに結合して除去
・投与量:レカネマブとして10mg/kg
・投与頻度:2週間に1回(約1時間の点滴)
・治療期間:18か月間が目安
・費用:年間およそ298万円(薬剤費・体重により変動/別途、高額療養費制度あり → §9)

5. ケサンラ®(ドナネマブ)とは【2025年 用量改訂】

ケサンラ®は、すでに脳にたまったAβプラーク(老人斑)に結合して取り除く薬です。レケンビ®が「プラークになる前」を狙うのに対し、ケサンラ®は「できてしまったプラーク」を掃除するイメージで、ねらう相手が少し異なります。

💉 投与方法のポイント

・標的:Aβプラーク(老人斑)に結合して除去
・投与頻度:4週間に1回(約30分の点滴)
・治療期間:最長12〜18か月。12か月時点のアミロイドPETでプラークが十分に除去されていれば、治療を終了できる場合があります
・費用:年間およそ308万円(薬剤費/別途、高額療養費制度あり → §9)

⚠ 2025年8月の用量改訂(添付文書 第3版)

ケサンラ®は2025年8月に用法・用量が改訂され、投与開始時の増やし方がより段階的になりました。具体的には、初回350mg → 2回目700mg → 3回目1,050mg → 4回目以降は1回1,400mgを、いずれも4週間隔で30分以上かけて点滴します。これは投与初期に起こりやすい副作用(ARIA → §8)のリスクをより慎重に管理するための変更で、24週までの総投与量はこれまでと変わりません。最新の投与スケジュールは導入医療機関でご確認ください。

6. 2剤をくらべる早見表 📊

「どちらが優れているか」ではなく、仕組み・通院の負担・治療期間が異なる2つの選択肢とお考えください。どちらが適しているかは、検査結果やライフスタイルをふまえて導入医療機関の医師と相談して決めます。

比較項目 レケンビ®(レカネマブ) ケサンラ®(ドナネマブ)
標的(ねらう相手) プロトフィブリル
(プラーク手前の塊)
Aβプラーク
(老人斑)
投与頻度 2週間に1回 4週間に1回
1回の点滴時間 約1時間 約30分
治療期間 18か月 最長12〜18か月
(PETで終了可の場合あり)
費用の目安(年間・薬剤費) 298万円 308万円
主な副作用 ARIA(脳浮腫・微小出血)/点滴に伴う反応・まれにアナフィラキシー(→§8)

※費用は薬剤費の目安であり、体重や投与回数、診療内容により変動します。実際の自己負担額は高額療養費制度により大きく変わります(→§9)。

7. 治療を受けられる方の条件 ―「早期」が鍵 👀

どちらの薬も、誰でも使えるわけではありません。対象は早期アルツハイマー病や軽度認知障害(MCI)の段階で、いくつもの条件を満たした方に限られます。判定には次のような検査・評価が必要です。

🩺 治療導入の前に確認すること(例)

・認知機能検査で「早期」の段階であること(進行例は対象外)
アミロイドβの蓄積が確認されていること(アミロイドPETや脳脊髄液検査)
・MRIで出血リスクなどに問題がないこと
APOE遺伝子型の確認(ARIAの起こりやすさに関わるため/→§8)
・全身状態や併用薬(抗凝固薬など)のチェック

最初の治療導入は「初期投与が可能な医療機関(基幹病院など)」でしか行えません。これらの薬を希望される方は、まず導入医療機関で適応の有無を判定し、適応があればどちらの薬を使うかを医師と相談することになります。

8. 副作用「ARIA」を正しく知る ― APOE遺伝子とMRI ⚠

これらの薬で最も注意が必要な副作用が、ARIA(アミロイド関連画像異常)です。脳のMRIで見つかる変化で、大きく2つに分けられます。

📊 ARIAの2つのタイプ

ARIA-E:脳のむくみ(浮腫)・滲出液の貯留
ARIA-H:脳の微小出血・脳表ヘモジデローシス・脳出血

ARIAの多くは投与開始から6か月以内に起こりやすく、症状がない(無症候性の)ことも少なくありません。だからこそ、定期的なMRIで早めに見つけて管理することが大切です。ケサンラ®では、たとえば2回目・3回目・4回目・7回目の投与前など、決められたタイミングでMRIを確認しながら進めます。軽度・無症候であれば慎重に継続を検討し、中等度〜重度の場合は所見が消えるまで投与を一時中断します。

🧬 APOE遺伝子型とARIAリスク

APOE ε4(イプシロン4)という遺伝子型を持つ方では、ARIA-Eや重いARIA-Hが起こりやすいことが分かっています。とくにε4を2つ持つ「ホモ接合型」の方で頻度が最も高くなります。このため治療前にAPOE遺伝子型を調べ、リスクを説明したうえで投与の可否や慎重度を判断します。

このほか、点滴に伴う反応として、まれにアナフィラキシーが起こることがあります。残念ながら「副作用がまったく出ない」という薬ではありませんが、適切な検査体制のもとで管理すれば、多くは早期に対応が可能です。リスクと効果のバランスを理解したうえで治療を選ぶことが大切です。

9. 費用と高額療養費制度 ― 実際の自己負担は? 💰

「年間約300万円」と聞くと驚かれるかもしれません。これは薬剤費の総額(10割)の目安です。実際にはこれらの薬は公的医療保険の対象であり、さらに高額療養費制度が使えるため、患者さんが実際に支払う自己負担額は大きく抑えられます。

📊 高額療養費制度のイメージ

高額療養費制度は、1か月の医療費の自己負担に年齢・所得に応じた上限を設ける仕組みです。たとえば70歳以上で一般的な所得の方の場合、外来の自己負担の上限は年間およそ14万円程度に収まるケースもあります(住民税非課税世帯などはさらに低くなります)。上限額は所得区分によって異なるため、ご自身の負担額は加入している健康保険の窓口でご確認ください。

「高くて手が届かない」と最初からあきらめてしまう前に、まずは制度を使った場合の実際の負担額を確認することをおすすめします。費用の見通しが立つだけでも、ご家族の不安は大きく軽くなります。

10. 当院でできること ― 紹介と継続点滴という橋渡し 🏥

旧・浜クリニックの時代から地域に親しまれてきた当院(五良ファミリークリニック センター南)は、認知症外来・神経内科を併設しています。レケンビ®・ケサンラ®の初回導入そのものは当院では行えませんが、地域のかかりつけ医として、次の2つの役割でお力になれます。

🏥 当院の2つの役割

① 導入医療機関へおつなぎする(入口の橋渡し)
「もしかして早期アルツハイマー病やMCIかもしれない」という方を、まず当院で評価し、初回導入が可能な医療機関へご紹介します。

② 安定後の継続点滴を担う(通院の橋渡し)
導入から約6か月が経過して状態が安定した方については、当院での継続点滴が可能です。大きな病院では点滴までの待ち時間が長くなりがちですが、通い慣れた地域のクリニックで続けられることは、ご本人・ご家族の負担軽減につながります。

「うちの家族は対象になるのか」「どこに相談すればいいのか分からない」――そんな段階こそ、地域のかかりつけ医の出番です。どうぞお気軽にご相談ください。

11. 今後の展望 ― レケンビ皮下注(自己注射)という選択肢 💉

これらの治療は今も急速に進歩しています。なかでも注目されているのが、レケンビ®(レカネマブ)の皮下注射製剤です。現在は2週間に1回、医療機関で約1時間の点滴を受ける必要がありますが、皮下注射が実用化すれば在宅での自己注射という選択肢が見えてきます。

💡 皮下注製剤の最新動向(2025年時点)

・米国では維持療法として皮下注オートインジェクター製剤(LEQEMBI® IQLIK™)が2025年8月に承認されました。
・日本では2025年11月28日に皮下注製剤の承認申請が行われました(2026年6月時点ではまだ承認前です)。
・想定される維持投与は週1回 360mgの皮下注。在宅での投与が選べるようになる可能性があります。

通院や点滴の負担が軽くなれば、治療を続けやすくなる方が増えるはずです。当院でも、こうした最新の動向を追いながら、地域の皆さまに正確な情報をお届けしてまいります。続報は本ブログでお知らせします。

五良ファミリークリニック センター南 院長 篠原 伸顕

🔁 3軸クロスポイント:アルツハイマー病治療を「糖尿病」「抗加齢」の視点でとらえる

新しい薬は確かに希望ですが、対象になるのは「ごく早期」のごく一部の方に限られ、費用も決して小さくありません。だからこそ当院は、糖尿病×認知症×抗加齢という3つの軸を横断する「3軸アプローチ」で、そもそもアルツハイマー病になりにくい脳を守ることを同じくらい大切にしています。

🩸 軸1: 糖尿病・生活習慣病との関連

糖尿病はアルツハイマー病の重要な危険因子で、両者が重なると認知症リスクがさらに高まる「ダブルジオパディ(二重の危険)」が知られています。久山町研究でも、糖尿病の方は認知症を発症しやすいことが示されています。血糖・血圧・脂質を整えることは、最も現実的な “早期からの認知症対策” です。くわしくは「糖尿病と認知症の危険な関係」をご覧ください。

🧠 軸2: 認知症・神経系との関連

認知症の原因はアルツハイマー病だけではありません。なかには治療で改善できるタイプ(治療可能な認知症)も含まれます。「物忘れ=アルツハイマー」と決めつけず、まず正しく見分けることが大切です。「認知症の種類」「治療可能な認知症」もあわせてご覧ください。

🌱 軸3: 抗加齢医学・健康寿命

脳の老化のスピードは、食事・運動・睡眠・血管の健康によって変えられます。抗加齢医学の視点から、AGEs(糖化)対策や生活習慣の見直しで「老化の見える化」を行い、平均寿命と健康寿命のギャップを縮めること――それが薬と並ぶもう一つの柱です。理事長は日本抗加齢医学会専門医として、グループの姉妹院とも連携しながらサポートします。

🏥 五良会グループ 姉妹クリニックの関連ブログ

よくあるご質問(FAQ)

Q1. レケンビ®とケサンラ®、どちらが良い薬ですか?

A. 一概に優劣はつけられません。ねらう相手(プロトフィブリルかプラークか)、通院の頻度(2週ごとか4週ごとか)、治療期間が異なる2つの選択肢です。検査結果・全身状態・生活スタイルをふまえ、導入医療機関の医師と相談して選びます。

Q2. 進行した認知症でも使えますか?

A. いいえ。対象は早期アルツハイマー病・軽度認知障害(MCI)の段階に限られます。中等度以降に進行した方や、症状がなく検査だけで異常が見つかった方は、現時点では投与開始の対象になりません。「早く気づくこと」が何より重要です。

Q3. 費用が高すぎて受けられないのでは?

A. 年間約300万円というのは薬剤費の総額の目安です。これらの薬は公的医療保険の対象で、高額療養費制度により実際の自己負担は大きく抑えられます。あきらめる前に、加入している健康保険の窓口で実際の負担額をご確認ください。

Q4. 副作用(ARIA)が心配です。

A. ARIA(脳のむくみや微小出血)は主に投与開始から6か月以内に起こりやすく、多くは無症状です。定期的なMRIで早期に見つけて管理します。APOE遺伝子型でリスクが変わるため、治療前に検査し、リスクを理解したうえで判断します。

Q5. センター南の当院では点滴を受けられますか?

A. 初回導入は当院では行えませんが、導入医療機関へのご紹介と、導入から約6か月後の安定期における継続点滴に対応しています。大きな病院での待ち時間が負担という方は、ぜひ地域のかかりつけ医として当院をご活用ください。

執筆|五良ファミリークリニック センター南 院長 篠原 伸顕(神経内科)/編集・監修|医療法人社団 正友会 理事長 五藤 良将(日本抗加齢医学会専門医)

五良ファミリークリニック センター南/竹内内科小児科医院/五良会クリニック白金高輪


GORYO FAMILY CLINIC CENTER MINAMI
五良ファミリークリニック センター南
内科・小児科・神経内科・認知症外来・頭痛外来・アレルギー科・糖尿病内科・心療内科

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