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その「ぼんやり」、認知症ではなく「てんかん」かもしれません〜増えている高齢発症てんかんのサイン・診断・治療を神経内科の視点で解説〜

[2026.08.18]
ELDERLY-ONSET EPILEPSY

その「ぼんやり」、認知症ではなく「てんかん」かもしれません
〜増えている高齢発症てんかんのサイン・診断・治療を神経内科の視点で解説〜

医療法人社団 正友会 理事長・五藤 良将(日本抗加齢医学会専門医・日本糖尿病協会登録医)より、「けいれんしないてんかん」が高齢者で増えている理由と、認知症との見分け方の本質をわかりやすくお伝えします。

高齢発症てんかん 認知症との見分け方 神経内科・認知症外来 横浜市都筑区センター南

― 理事長より、はじめに ―

こんにちは。医療法人社団 正友会 理事長の五藤 良将です。「最近、父が会話の途中で急にぼんやりして、呼びかけても数分間返事をしないんです。認知症でしょうか?」――当院の認知症外来・神経内科外来で、ご家族からこうしたご相談をいただくことが増えています。

結論からお伝えします。「数分間だけぼんやりして、終わると元に戻る」を繰り返す場合、それは認知症ではなく「高齢発症てんかん」の発作かもしれません。てんかんの新規発症は実は高齢者で最も多く、その多くはけいれんを起こしません。そして適切な診断がつけば、少量のお薬で約8割の方が発作を抑えられます。つまり、「治せるもの忘れ・ぼんやり」を見逃さないことが何より大切なのです。

本記事では、高齢者のてんかんがなぜ増えているのか、認知症や失神・低血糖とどう見分けるのか、診断・治療の流れとご家庭での注意点まで、神経内科・認知症外来・糖尿病内科を併設する当院ならではの3軸アプローチで解説します。

1. 「てんかん=子どもの病気」は誤解──新規発症は高齢者が最多

てんかんと聞くと、「子どもの頃に発症する病気」というイメージをお持ちの方が多いのではないでしょうか。実はこれは大きな誤解です。てんかんの新規発症率は、小児期と高齢期の2つのピークを持つ「二峰性」を示し、現在では65歳以上の高齢期が生涯で最も発症率の高い年代となっています。🧓

日本のてんかん患者さんはおよそ100万人(人口の約1%)と推計されますが、超高齢社会の進行とともに「高齢になってから初めててんかんを発症する方」=高齢発症てんかんが年々増えています。65歳以上の有病率は約1〜1.5%と報告されており、決してまれな病気ではありません。

📊 見逃されやすい──データが示す事実

  • てんかんの新規発症率は65歳以上で最も高い(小児期を上回る二峰性)
  • 高齢者のてんかん発作の多くはけいれんを伴わないため、周囲が「発作」と気づきにくい
  • 「ぼんやり」「もの忘れ」として認知症と誤解されたまま、診断が遅れるケースが少なくない

2. なぜ高齢者にてんかんが増えるのか──3大原因

高齢発症てんかんの多くは、加齢そのものではなく、脳に加わった何らかのダメージが引き金になります。代表的な原因は次の3つです。

🧠 ① 脳卒中(最多)

高齢発症てんかんの原因として最も多く、約3〜4割を占めると報告されています。脳梗塞・脳出血の傷あと(瘢痕)が、数ヶ月〜数年たってから発作の火種になることがあります。

🧩 ② 認知症(アルツハイマー病など)

アルツハイマー病の方は、そうでない方に比べててんかん発作を数倍起こしやすいことが知られています。「認知症の悪化」に見えて、実は発作が重なっているケースもあります。

🩹 ③ 頭部外傷・脳腫瘍など

転倒による頭部打撲(慢性硬膜下血腫を含む)、脳腫瘍、脳炎の後遺症なども原因になります。一方で、検査をしても原因が特定できない方も一定数いらっしゃいます。

💡 つまり「脳卒中予防」は「てんかん予防」でもあります

高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙といった血管リスクの管理は、脳卒中を防ぐと同時に、その先にある高齢発症てんかんの予防にもつながります。旧・浜クリニックとして地域に親しまれてきた当院では、生活習慣病の管理と神経内科診療をワンストップで行っています。

3. けいれんしない発作──「ぼんやり」「動作停止」「口もぐもぐ」

「てんかん発作」というと、全身を硬直させてけいれんする姿を想像されるかもしれません。しかし高齢者のてんかんの主役は、側頭葉などから始まる焦点意識減損発作(意識がくもるタイプの発作)です。⚠ その特徴は驚くほど地味です。

👀 高齢者てんかんの典型的な発作のようす

  • 突然、動作が止まり、ぼんやりと一点を見つめる(呼びかけても反応が乏しい)
  • 口をもぐもぐ・ぺちゃぺちゃさせる、手をもぞもぞ動かす(自動症と呼ばれます)
  • 発作そのものは数十秒〜数分で終わる
  • 発作のあと、もうろうとした状態(発作後もうろう)が数十分〜半日以上続くことがある(高齢者では長引きやすいのが特徴)
  • 本人は発作中のことを覚えていない

この「数分のぼんやり+長い寝ぼけたような時間」が、周囲には「年のせい」「認知症が始まったのかも」と映ってしまうのです。同じようなエピソードが繰り返し起こることが、てんかんを疑う最大の手がかりになります。🔁

4. 認知症と間違われやすい理由──「てんかん性のもの忘れ」とは

高齢発症てんかんが認知症と混同されやすいのには、はっきりした理由があります。発作の震源地になりやすい側頭葉の内側(海馬のあたり)は、記憶をつかさどる場所そのものだからです。🧠 発作のたびに記憶の回路が一時的にシャットダウンするため、「その間の記憶がすっぽり抜ける」ことが起こります。

中には、ぼんやりする発作は目立たず、「数時間〜数日の出来事をまるごと忘れる」「旅行の記憶が抜け落ちる」といった一過性のもの忘れを繰り返すタイプ(一過性てんかん性健忘)もあります。起床時に起こりやすいのが特徴で、認知症やこころの病気と誤解されやすい病態です。

観察ポイント てんかん(発作性) 認知症(アルツハイマー型など)
症状の出かた 突然始まり、数分で終わる「エピソード」を繰り返す 数ヶ月〜数年かけてゆっくり進行する
発作のない時間 ふだんは普段どおり会話も家事もできる もの忘れや段取りの悪さが常にみられる
もの忘れの性質 特定の時間帯の記憶がまるごと抜ける 新しいことを覚えること自体が難しくなる
随伴サイン 口もぐもぐ・手の自動症・発作後のもうろう 道に迷う・同じ話を繰り返す・生活の変化
治療への反応 抗てんかん薬で約8割が発作を抑制できる 進行を緩やかにする治療が中心

📊 これは何を意味するのか?

「認知症だと思っていたら、実はてんかんだった」──この場合、適切なお薬で症状が劇的に改善する可能性があります。逆に、認知症とてんかんは合併することも多く、アルツハイマー病の方の発作は見逃されがちです。「どちらか」ではなく「どちらも」評価できる、認知症外来と神経内科を併設した外来での鑑別が重要です。

5. 失神・低血糖との見分け方──比較表つき

「突然意識がなくなる」病気はてんかんだけではありません。高齢の方では、失神(血圧や不整脈が原因で脳への血流が一時的に減る)や、糖尿病治療中の低血糖もよく似た見え方をします。🩸 見分けのヒントを整理します。

項目 てんかん発作 失神 低血糖
起こる状況 状況を選ばない(睡眠不足などが誘因に) 立ち上がった直後・食後・排尿時・長時間の立位など 食事を抜いた時・薬が効きすぎた時・運動後
前ぶれ みぞおちの違和感・既視感・においなど(ないことも) 目の前が暗くなる・ふらつき・冷や汗 空腹感・動悸・冷や汗・手のふるえ
回復のしかた もうろう状態が長く続く(数十分〜) 横になると数分以内にはっきり回復 ブドウ糖補給で回復
くり返し方 同じパターンの発作を繰り返す 立ちくらみなど状況に依存して起こる 血糖の変動に一致して起こる

⚠ 自己判断は禁物です
失神の背後に不整脈などの心臓の病気が隠れていることもあり、低血糖のけいれんをてんかんと誤ることもあります。「意識を失うエピソード」があったら、原因が何であれ一度は医療機関でご相談ください。当院は糖尿病内科(水曜は糖尿病専門外来)と神経内科を併設しており、両面からの評価が可能です。

6. ご家族のためのサイン・チェックリスト

高齢者てんかんの発見者は、ほとんどの場合ご本人ではなくご家族です。👥 次のようなサインが繰り返しみられたら、神経内科の受診をおすすめします。

✅ こんなエピソードはありませんか?(繰り返すことがポイント)

  • 会話や食事の途中で急に動きが止まり、呼びかけに反応しないことがある
  • ぼんやりしている間、口をもぐもぐさせる・服をまさぐるなどの動きがある
  • 「その間のことをまったく覚えていない」と本人が言う
  • 朝方にもうろうとした状態で見つかることがある/起きたら舌を噛んでいた・尿を失禁していた
  • 数時間〜数日の記憶がまるごと抜け落ちることが何度かあった
  • 原因のはっきりしない転倒・打撲を繰り返している
  • 脳梗塞・脳出血の既往があり、最近「ぼんやりする時間」が出てきた

💡 最強の検査は「スマートフォンの動画」です

発作は診察室ではまず起こりません。ご家庭で同じ様子が始まったら、安全を確保したうえで可能な範囲でスマートフォンで動画を撮り、時間を計ってください。数十秒の動画が、脳波検査に匹敵する診断の決め手になることがあります。📱

7. 診断の流れ──問診・脳波・MRI、そして「目撃情報」

てんかんの診断は「てんかん診療ガイドライン2018(日本神経学会)」に沿って、次のステップで進めます。🏥

📝 ① 問診・目撃情報

診断の最重要情報です。発作の始まり方・持続時間・回復のしかたを、目撃したご家族から詳しく伺います。動画があれば大きな助けになります。

🧠 ② 脳波検査(EEG)

てんかん特有の波(てんかん性放電)を探します。ただし1回の脳波で異常が出ないことも多く、「脳波が正常=てんかんではない」とは言えません。必要に応じて繰り返します。

🖥 ③ 頭部MRI・血液検査など

脳卒中の傷あと・腫瘍・海馬の変化など原因検索を行い、血糖・電解質・心電図で「てんかん以外」の原因も除外します。連携病院での精査もスムーズにご案内します。

当院は頭痛外来・神経内科を中心とするクリニックとして、こうした「意識がとぶ」「ぼんやりする」エピソードの初期評価から、高次医療機関(長時間ビデオ脳波モニタリングなど)への橋渡し、その後の安定期の治療継続までを地域で担っています。

8. 治療──少量のお薬でよくコントロールできます

ここは、ぜひ希望を持っていただきたいポイントです。高齢発症てんかんは、実は「薬がよく効くてんかん」として知られています。適切な抗てんかん薬を1剤、少量から使うことで、約8割の方が発作を抑えられると報告されています。💊

🥼 高齢者の治療で大切にしていること

  • 少量から始めて、ゆっくり増やす──高齢の方は薬の代謝が遅く、少ない量で十分効くことが多いためです
  • 飲み合わせに配慮した新しい世代の薬を優先──レベチラセタムやラモトリギンなど、他のお薬との相互作用が少ない薬剤が第一選択になりやすいと、てんかん診療ガイドライン2018でも示されています
  • ふらつき・眠気・転倒リスクをこまめにチェック──「発作は止まったが、ふらついて転ぶ」では本末転倒です
  • 他院の処方も含めた「お薬の全体最適」──多剤併用(ポリファーマシー)の整理も同時に行います

⚠ 自己中断がいちばん危険です
調子が良くなったからと自己判断で薬をやめると、発作の再発だけでなく、まれに発作が止まらなくなる「てんかん重積状態」を招くことがあります。減量・中止は必ず主治医と相談しながら進めましょう。

9. 生活の注意点──運転・入浴・お薬・睡眠

🚗 運転について

道路交通法により、てんかんと診断された場合は発作が一定期間なく、医師の診断など所定の条件を満たすまで運転できません。大切なご家族と周囲を守るルールです。免許の手続きも含め、外来で率直にご相談ください。

🛁 入浴について

発作が安定するまでは、浴槽での溺水がもっとも注意すべき事故です。ご家族が在宅の時間帯に入浴する、湯量を減らす、シャワー中心にするなどの工夫を。

💊 飲み忘れ対策

飲み忘れは発作再発の最大の誘因です。お薬カレンダー・一包化・服薬アプリを活用しましょう。当院では一包化のご相談も承ります。

😴 睡眠・お酒

睡眠不足と深酒は発作の引き金になります。規則正しい睡眠と節酒(できれば禁酒に近い形)を心がけましょう。いびき・無呼吸がある方は睡眠時無呼吸の評価もおすすめします。

💡 発作を目撃したら──あわてず「安全確保と時間の記録」を

周囲の危険物を遠ざけ、顔を横に向けて楽な姿勢に。口の中に物を入れるのは絶対にやめてください(窒息やけがの原因になります)。ほとんどの発作は数分でおさまります。けいれんが5分以上続く場合や、意識が戻らないまま発作を繰り返す場合は、ためらわず119番をお願いします。

🔁 3軸クロスポイント:高齢者のてんかんを「糖尿病」「認知症」「抗加齢」の視点でとらえる

高齢発症てんかんは、脳だけの問題ではありません。血管・血糖・認知機能・老化のスピードが複雑に絡み合う、まさに当院の「3軸アプローチ」が生きるテーマです。

🩸 軸1: 糖尿病・生活習慣病との関連

高齢発症てんかんの最大の原因は脳卒中であり、その脳卒中の背景には高血圧・糖尿病・脂質異常症があります。つまり血糖・血圧・コレステロールの管理は、回り道のようでいて最も確実なてんかん予防です。また、糖尿病治療中の低血糖や著しい高血糖はそれ自体がけいれん・意識障害を起こすため、てんかんとの鑑別・両立管理が欠かせません。当院では水曜の糖尿病専門外来と神経内科が同じ屋根の下で連携しています。

🧠 軸2: 認知症・神経系との関連

アルツハイマー病の方はてんかん発作を合併しやすく、逆にてんかんによる「ぼんやり」「もの忘れ」が認知症と誤診されることもあります。発作を治療すると記憶や生活の質が見違えるように改善するケースがある一方、コントロール不良の発作の繰り返しは認知機能低下を加速させる可能性も指摘されています。認知症外来と神経内科を併設する当院だからこそ、「認知症か、てんかんか、その両方か」を丁寧に見極めます。

🌱 軸3: 抗加齢医学・健康寿命

発作そのものに加え、転倒・骨折・閉じこもりが健康寿命を縮める「二次的なダメージ」になります。発作をきちんと抑え、睡眠・栄養・運動を整えて脳の予備力を保つことは、平均寿命と健康寿命のギャップを縮める抗加齢医学の実践そのものです。日本抗加齢医学会専門医の立場から、お薬だけに頼らない生活全体の設計をご提案します。

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11. よくあるご質問(FAQ)

Q1. 80歳の母が時々ぼんやりします。年のせいではないのですか?

A. 「年のせい」で片づけてよいかどうかは、エピソードの出かたで判断します。突然始まり数分で終わる「ぼんやり」を同じパターンで繰り返す場合は、てんかん発作の可能性があります。様子を動画やメモで記録し、一度神経内科でご相談ください。

Q2. 脳波検査で異常がなければ、てんかんではないと考えてよいですか?

A. いいえ。発作と発作の間の脳波は正常なことも多く、1回の脳波で異常が出ない方は珍しくありません。診断の柱はあくまで「発作のようすの詳しい情報」で、脳波はそれを補強する検査です。必要に応じて再検査や長時間の脳波記録を行います。

Q3. 薬は一生飲み続けなければいけませんか?

A. 高齢発症てんかんは原因(脳卒中の傷あとなど)が残っていることが多いため、長期の内服継続が基本になります。ただし少量で安定する方が多く、副作用がつらい場合は薬剤の変更・調整が可能です。自己判断での中断だけは避けてください。

Q4. てんかんと診断されたら、車の運転はもうできないのでしょうか?

A. 一律に「一生運転できない」わけではありません。道路交通法の運用基準では、発作が一定期間なく再発のおそれが低いと医師が判断できる場合など、所定の条件を満たせば運転再開の道があります。ただし条件を満たすまでは運転できません。手続きを含め、外来で必ずご相談ください。

Q5. 認知症の診断を受けていますが、てんかんの検査も受けたほうがよいですか?

A. 認知症の経過中に「急に調子の悪い日がある」「日によって差が大きい」「ぼんやりして反応しない時間がある」という場合は、てんかん発作の合併を確認する価値があります。発作の治療で生活の質が大きく改善することがあります。当院の認知症外来でお気軽にお申し出ください。

執筆|医療法人社団 正友会 理事長 五藤 良将(日本抗加齢医学会専門医・日本糖尿病協会登録医)

五良ファミリークリニック センター南/竹内内科小児科医院/五良会クリニック白金高輪


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