数十秒、ぼーっとして呼びかけに答えない〜「けいれんしない」高齢者てんかんは認知症と間違えられます〜
― 理事長より、はじめに ―
こんにちは。医療法人社団 正友会 理事長の五藤 良将です。「食事中に父が急に手を止めて、ぼーっとしたまま呼びかけに答えなくなる」「母が口をもぐもぐさせながら、うつろな表情で数十秒固まっていた」「最近、会話や出来事をすっぽり忘れることがあり、認知症では…」──こうしたご相談で受診され、詳しく調べてみると認知症ではなく「てんかん」だった、というケースが実は少なくありません。
結論からお伝えします。てんかんは「子どもの病気」ではなく、実は高齢になってから新たに発症する方が最も多い病気です。しかも高齢者のてんかんの多くは、手足をガクガクさせる「けいれん」を起こしません。「ぼんやりする」「記憶が飛ぶ」といった地味な症状のため、認知症やもの忘れと間違えられて診断が遅れがちですが、正しく診断がつけば、少量のお薬で発作の大部分をコントロールできる、治療効果のとても高い病気です。
本記事では、旧・浜クリニックとして地域に親しまれてきた当院の神経内科・認知症外来の視点から、高齢者てんかんが増えている理由、けいれんしない発作の具体的なサイン、認知症との見分け方、検査と最新治療、そしてご家族ができることまでを、順を追って解説します。
📖 目次
1. 「てんかん=子どもの病気」は誤解──発症のピークは高齢期
🧓 「てんかん」と聞くと、多くの方は子どもの病気を思い浮かべます。確かに小児期にも発症のピークがありますが、実はてんかんを新たに発症する率が最も高いのは65歳以上の高齢者であることが、国内外の疫学研究で繰り返し示されています。日本には約100万人のてんかん患者さんがいるとされ、高齢化にともなって「高齢発症てんかん(late-onset epilepsy)」は年々増加しています。
📊 高齢者てんかん──データが示す事実
- てんかんの新規発症率は65歳以上で最も高く、小児期を上回ります(てんかん診療ガイドライン2018ほか)
- 高齢者のてんかん有病率はおよそ1%前後と報告され、決してまれな病気ではありません
- 高齢者てんかんの多く(約6〜7割)は、手足のけいれんを伴わない「焦点意識減損発作」が中心です
- 症状が地味なため、認知症・もの忘れ・「年のせい」と誤解され、診断まで年単位かかることも珍しくありません
つまり、「高齢だからてんかんではないだろう」という思い込みこそが、診断を遅らせる最大の落とし穴です。当院のような神経内科・認知症外来を併設したクリニックが、まさに力を発揮すべき領域だと考えています。
2. なぜ高齢になっててんかんを発症するのか──主な原因
てんかん発作は、脳の神経細胞が過剰に興奮することで起こります。高齢発症てんかんでは、長年の間に脳が受けてきた「傷」が引き金になることが多く、原因として次のようなものが挙げられます。
🩸 脳卒中の後遺症(最多)
高齢発症てんかんの原因として最も多く、約3〜4割を占めるとされます。脳梗塞・脳出血の傷あとが発作の源(焦点)になります。小さな「隠れ脳梗塞」が関与することもあります。
🧠 認知症・神経変性疾患
アルツハイマー型認知症の方は、そうでない方に比べててんかん発作のリスクが数倍高いことが知られています。認知症とてんかんは「合併」することもある、という点が重要です。
🤕 頭部外傷・脳腫瘍など
転倒などによる頭部外傷(慢性硬膜下血腫を含む)、脳腫瘍、脳炎の既往なども原因になります。数年前のケガが引き金になることもあります。
❓ 原因が特定できないもの
詳しく調べても原因がはっきりしない例も3割程度あります。原因不明でも治療方針は立てられますので、悲観する必要はありません。
💡 生活習慣病との深いつながり
最大の原因である脳卒中の背景には、高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙といった生活習慣病があります。つまり、生活習慣病の管理は「脳卒中予防」であると同時に、めぐりめぐって「高齢期のてんかん予防」でもあるのです。
3. 「けいれんしない発作」とは──高齢者てんかんの典型サイン
高齢者てんかんで最も多いのは、脳の一部(特に記憶を司る側頭葉)から発作が始まる「焦点発作」です。意識が曇るタイプ(焦点意識減損発作)では、ドラマで見るような全身のけいれんは起こらず、次のような一見「地味な」症状が数十秒〜数分続きます。
| よくあるサイン | 具体的な様子 |
|---|---|
| 動作が止まり、ぼーっとする | 食事や会話の途中で急に手が止まり、うつろな表情で呼びかけに反応しない(数十秒〜2分程度) |
| 口や手の「自動症」 | 口をもぐもぐ・ぺちゃぺちゃさせる、舌なめずり、手で服やものをまさぐる動作を無意識に繰り返す |
| 発作後のもうろう状態 | 発作が終わった後も、ぼんやり・つじつまの合わない言動が続く。高齢者では数時間〜長い場合は1日以上続くこともあります |
| 記憶がすっぽり抜ける | 発作中〜発作後のことを本人はまったく覚えていない。「同じことを何度も聞く」「買い物したことを忘れる」として気づかれることも |
| 前ぶれ(前兆) | みぞおちから込み上げる違和感、既視感(デジャブ)、嫌なにおい・味を感じる、など本人にしかわからない感覚が先行することがあります |
⚠ ここがポイント
これらの症状は「発作のとき」だけ現れ、それ以外の時間は普段どおりしっかりされている──この「エピソード性(発作性)」こそが、てんかんを疑う最大の手がかりです。同じような場面(食事中・起床後など)で、同じような症状が繰り返し起きていないか、ぜひ思い返してみてください。
4. 認知症と間違えられる理由と、見分けるポイント
🧠 「ぼんやりする」「記憶が抜ける」「同じことを聞く」──これらは認知症の症状としてもよく知られているため、高齢者てんかんはしばしば認知症と誤解されます。しかし、両者には次のような違いがあります。
| 観察ポイント | 高齢者てんかん | 認知症(アルツハイマー型など) |
|---|---|---|
| 症状の出方 | 発作的・エピソード的。普段はしっかりしている | 持続的で、月〜年単位でゆっくり進行する |
| 記憶の抜け方 | 発作前後の特定の時間帯だけすっぽり抜ける(まだら状) | 新しいことを覚える力が全般的に低下していく |
| 始まり方 | 「あの日から」と比較的はっきりしていることが多い | いつからかはっきりしないことが多い |
| 随伴する動作 | 口もぐもぐ・手もぞもぞなどの自動症を伴うことがある | こうした発作性の自動症は通常みられない |
| 治療への反応 | 適切な抗てんかん薬で症状が劇的に改善し得る | 進行を緩やかにする治療が中心となる |
ややこしいのは、先に触れたとおり認知症とてんかんが合併するケースがあることです。「認知症と診断されているが、時々ワンランク調子の悪い日がある」「日によって波が大きすぎる」という場合、てんかん発作が隠れていないかを検討する価値があります。てんかんの治療で「認知症だと思っていた症状」の一部が改善することもあり、これは見逃したくない"治療可能なもの忘れ"です。
5. 失神・低血糖・一過性全健忘──似ている他の病気との鑑別
「意識がおかしくなる発作」を起こす病気はてんかんだけではありません。神経内科では、次のような病気を丁寧に見分けていきます。
💗 失神(不整脈・起立性低血圧など)
血の気が引いて数秒〜1分以内に意識を失い、倒れた後は比較的すみやかに回復します。立ち上がった直後や排尿時に起きやすいのが特徴。心電図検査が重要です。
🩸 低血糖発作
糖尿病治療中の方では、冷や汗・手のふるえ・意識もうろうが低血糖のサインのことがあります。重度になるとけいれんを起こすこともあり、血糖測定で判別できます。
🌀 一過性全健忘(TGA)
数時間だけ新しいことを覚えられなくなり、同じ質問を繰り返す病態。多くは生涯に1回きりで、繰り返す場合はてんかん(一過性てんかん性健忘)を疑います。
⚡ 一過性脳虚血発作(TIA)
脳の血流が一時的に途絶え、片側の手足の麻痺やろれつが回らない症状などが数分〜24時間以内で消える発作。脳梗塞の前ぶれであり、こちらも早急な対応が必要です。
これらはいずれも対処法がまったく異なります。「一度きりだから」「すぐ戻ったから」と自己判断せず、発作の様子をメモして神経内科にご相談ください。
6. 放置するとどうなる?──転倒・骨折・重積発作のリスク
「けいれんしないなら、放っておいても大丈夫では?」と思われるかもしれません。しかし、高齢者てんかんの放置には次のようなリスクがあります。
⚠ 未治療のてんかんに潜むリスク
- 転倒・骨折・頭部外傷:発作中の転倒は、高齢者では大腿骨骨折や慢性硬膜下血腫につながり、要介護の入り口になり得ます
- 入浴中・調理中・運転中の事故:意識が曇るタイミングを選べないため、生活の中に危険が潜みます
- けいれん重積状態:発作が長時間止まらなくなる緊急事態で、高齢者では命に関わることがあります
- 認知機能への影響:発作を繰り返すこと自体が記憶力の低下やQOL低下につながると考えられています
- 「認知症」と誤ったレッテル:本来は薬でよくなる状態なのに、適切な治療機会を失ってしまいます
逆にいえば、診断さえつけば防げるリスクばかりです。だからこそ早めの受診が大切です。
7. 診断の流れ──脳波・MRI・そして「目撃情報」が決め手
てんかんの診断で最も重要なのは、実は検査機器ではなく「発作の様子を正確に知ること」です。本人は発作を覚えていないことが多いため、ご家族など周囲の方の観察が診断の質を大きく左右します。
📱 ① ご家族による「発作の記録」
いつ・どんな場面で・何分続いたか・呼びかけに反応したか・その後の様子をメモ。可能であればスマートフォンでの動画撮影が、何よりの診断材料になります。
🧠 ② 脳波検査(EEG)
てんかん性の異常波を調べます。ただし1回の脳波で異常が捉えられるのは半数以下。1回正常でも否定はできず、繰り返しの検査や睡眠時の記録が有用です。
🏥 ③ 頭部MRI・CT
脳卒中の傷あと、腫瘍、慢性硬膜下血腫など、発作の原因となる病変がないかを確認します。連携する画像検査機関・病院と協力して進めます。
🩸 ④ 血液検査・心電図
血糖・電解質・肝腎機能などの異常や不整脈による失神を除外します。糖尿病内科を併設する当院では、血糖の問題との切り分けもスムーズです。
🏥 当院(センター南)でできること
- 神経内科・認知症外来・頭痛外来を併設──「てんかんか、認知症か、それとも両方か」を一つの窓口で評価できます
- 発作の問診・神経診察・血液検査・心電図で全体像を把握し、脳波・MRIは連携機関と協力して実施します
- てんかんの専門的治療や外科的評価が必要な場合は、地域の基幹病院・てんかん専門施設へ責任を持ってご紹介します
- センター南駅徒歩9分・駐車場4台。ご高齢の方の通院しやすさを大切にしています
8. 治療──高齢者ほど少量のお薬でよくコントロールできます
「てんかんの薬は強そうで怖い」と心配される方も多いのですが、ここには朗報があります。高齢発症のてんかんは、若い方のてんかんに比べて薬がよく効き、少量の抗てんかん薬で発作が抑えられる方が大半なのです(てんかん診療ガイドライン2018)。
📊 これは何を意味するのか?
高齢者てんかんの多くは、適切な薬剤選択により1剤・少量で高い割合の方が発作ゼロを目指せると報告されています。つまり高齢者てんかんは、数ある神経の病気の中でも「診断がつきさえすれば、最も治療の手応えが大きい病気の一つ」なのです。
治療のポイントは次のとおりです。
- 新しい世代の抗てんかん薬を少量から──レベチラセタム、ラコサミド、ラモトリギンなどは、従来薬に比べて眠気やふらつき、他のお薬との相互作用が少なく、多くの薬を服用している高齢者に適しています。
- 「腎機能・肝機能に合わせた用量調整」──高齢の方は薬の代謝・排泄がゆっくりになるため、少量から慎重に調整します。
- 飲み合わせの総点検──すでに服用中のお薬との相互作用を確認し、必要に応じて処方全体を整理(ポリファーマシー対策)します。
- 自己判断での中断は厳禁──急にやめると発作がぶり返し、重積発作の引き金になることがあります。
9. 日常生活の注意点──睡眠・お酒・お薬・運転のこと
お薬と同じくらい大切なのが、発作を誘発しにくい生活づくりです。
🛏 睡眠不足を避ける
睡眠不足は最も代表的な発作の誘因です。規則正しい睡眠リズムを保ちましょう。いびきが強い方は睡眠時無呼吸の評価も有用です。
🍷 深酒をしない
多量の飲酒とその後の離脱は発作を誘発します。飲む場合も節度を守り、お薬との飲み合わせは主治医にご確認ください。
💊 飲み忘れ対策
飲み忘れは発作再発の最大の原因の一つ。お薬カレンダーや一包化、ご家族の声かけなど、続けられる仕組みを一緒に考えます。
🚗 運転は必ず主治医と相談
発作があった方は、道路交通法により一定期間(原則として発作なく2年以上経過し医師が認める等の条件)は運転できません。必ず主治医・公安委員会の判断に従ってください。
💡 ご家族へ──発作が起きたときの対応
あわてて体を押さえつけたり、口に物を入れたりしないでください。周囲の危険物を遠ざけ、静かに見守り、時間を測り、可能なら動画を撮るのが正解です。発作が5分以上続く場合、続けて起こる場合、けがをした場合は救急車(119番)を呼んでください。
🔁 3軸クロスポイント:高齢者てんかんを「糖尿病」「認知症」「抗加齢」の視点でとらえる
当院が掲げる「3軸アプローチ」(糖尿病×認知症×抗加齢)で高齢者てんかんを見つめ直すと、この病気が単なる「脳の電気的な異常」ではなく、全身の健康と地続きであることが見えてきます。
🩸 軸1: 糖尿病・生活習慣病との関連
🧠 軸2: 認知症・神経系との関連
🌱 軸3: 抗加齢医学・健康寿命
10. 関連ブログ・関連クリニック
📚 当院ブログ・関連テーマ
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血糖値を急上昇させない「ベジファースト」の科学
食べる順番で血糖値スパイクを抑える方法を解説。脳血管を守る血糖管理は、高齢期のてんかん予防にもつながります。
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夏の血糖コントロール|脱水・食欲低下と上手に付き合うコツ
糖尿病内科医が夏場の血糖管理を解説。低血糖・高血糖はてんかん発作との鑑別が必要な病態でもあります。
11. よくあるご質問(FAQ)
Q1. 発作は1回だけです。それでも受診したほうがいいですか?
A. はい、ぜひご受診ください。1回だけの発作でも、脳卒中の傷あとなど原因が見つかった場合には再発の可能性が高く、治療を検討することがあります。また失神・低血糖・TIAなど、てんかん以外の重要な病気が見つかることもあります。発作の様子のメモや動画があると診断がぐっと正確になります。
Q2. 脳波検査で異常がなければ、てんかんではないのですか?
A. いいえ。1回の脳波検査でてんかん性の異常が捉えられるのは半数以下とされ、脳波が正常でもてんかんは否定できません。診断の基本は発作の様子(病歴・目撃情報)であり、必要に応じて脳波を繰り返したり、睡眠時の記録を行ったりします。
Q3. 抗てんかん薬は一生飲み続けるのですか?ボケたりしませんか?
A. 高齢発症てんかんは再発しやすいため、長期の内服をおすすめすることが多いのは事実です。ただし、新しい世代のお薬は少量で効き、眠気やふらつき・認知機能への影響も従来薬より少なくなっています。「薬でぼんやりする」よりも「発作を放置して転倒・記憶障害が進む」ほうがはるかにリスクが大きい、というのが私たちの考えです。気になる副作用があれば遠慮なくご相談ください。
Q4. 認知症と診断されている母にも、てんかんが隠れている可能性はありますか?
A. あり得ます。アルツハイマー型認知症の方はてんかんを合併しやすいことが知られています。「日によって調子の波が極端」「一定時間の記憶だけがすっぽり抜ける」「ぼーっとして反応しない時間帯がある」などのエピソードがあれば、当院の認知症外来・神経内科でてんかん合併の評価が可能です。
Q5. 発作の後、車の運転はできますか?
A. 発作があった方は、道路交通法により一定の条件(原則として発作なく2年以上経過し、医師の診断があること等)を満たすまで運転はできません。ご本人と周囲の安全のため、必ず主治医にご相談のうえ、公安委員会の手続きに従ってください。当院でも運転に関するご相談をお受けしています。
執筆|医療法人社団 正友会 理事長 五藤 良将(日本抗加齢医学会専門医・日本糖尿病協会登録医)
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理事長 五藤 良将
