認知症の種類|アルツハイマー・レビー小体型・脳血管性・前頭側頭型認知症の特徴
― 院長より、はじめに ―
物忘れ外来でご家族からよくいただくのが、「うちの親は何の認知症ですか?」「アルツハイマー以外もあるんですか?」というご質問です。
結論からお伝えします。認知症は1つの病気ではなく、原因の異なる複数の疾患をまとめた呼び名です。日本ではアルツハイマー型が約3分の2を占めますが、脳血管性・レビー小体型・前頭側頭型・混合型など、それぞれ症状や進行・治療の選択肢が大きく異なります。
本記事では、まず日本における認知症の内訳を確認したうえで、4大認知症それぞれの「気づきポイント」「進み方」「現時点で使える治療」を、ご家族目線でわかりやすくまとめます。最後に MCI(軽度認知障害)と「治療で改善できる認知症(Treatable dementia)」へのハブリンクも用意しました。
📖 目次
1. 認知症とは──「老化による物忘れ」との境目
認知症とは、いったん獲得した認知機能(記憶・判断・言語・実行機能など)が後天的に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態を指します。ここで重要なのは「日常生活に支障があるかどうか」という線引きです。
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🧠 老化による物忘れ
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⚠ 認知症の物忘れ
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「鍵をどこに置いたか思い出せない」は老化による物忘れですが、「鍵を置いた事自体を覚えていない」「家族から鍵を渡されたこと自体を忘れる」は認知症の物忘れに近いサインです。ご家族が「あれ、いつもと違うな」と気づいたタイミングこそ、診察にお越しいただきたい瞬間です。
2. 日本における認知症の内訳
厚生労働省の代表的なデータ(朝田班報告ほか)によると、日本で認知症と診断されている方の内訳は次のとおりです。地域や調査年で多少のばらつきはありますが、おおむねこの比率が長く維持されています。
| 認知症のタイプ | 割合(概数) | 特徴の一言サマリー |
|---|---|---|
| アルツハイマー型 | 約 67% | ゆっくり進行・新しい記憶から失われる |
| 脳血管性 | 約 19% | 階段状に進行・障害部位で症状が違う |
| レビー小体型 | 約 4% | 幻視・パーキンソン症状・日内変動 |
| 前頭側頭型 | 約 1% | 性格変化・社会的逸脱・記憶は比較的保たれる |
| その他(混合型・正常圧水頭症など) | 約 7〜10% | 「治る認知症」が含まれる |
📊 ここがポイント
以前の日本では 脳血管性認知症 が多数を占めていました。高血圧・脂質異常症・2型糖尿病への治療が進んで脳卒中が減り、相対的に アルツハイマー型 が増えたという経緯があります。つまり「血管を守ること」は、現在でも認知症全体の予防の柱です。詳しくは 糖尿病と認知症の危険な関係 へ。
3. ① アルツハイマー型認知症(最多)
発症の 20〜30年前 から、脳内に アミロイドβ というタンパク質が少しずつ蓄積し「老人斑」を形成、続いて タウ タンパクの異常蓄積が起こり、海馬を中心とした神経細胞が脱落していく病気です。
🩺 気づきポイント(初期サイン)
- 新しい記憶から障害される(今朝食べたものを思い出せない/昔の事はよく覚えている)
- 同じ話を何度も繰り返す
- 約束を忘れる、時計やカレンダーが読めない
- 進行すると 見当識障害(今がいつか/ここがどこか/相手が誰か分からない)
- さらに進行すると判断力・実行機能・言語の障害
💡 治療の最新動向
従来は ドネペジル(アリセプト®)/ガランタミン/リバスチグミン/メマンチン が中心で、これらは進行の 症状を和らげる「対症療法」 でした。2023年以降、レカネマブ(レケンビ®)、2024年から ドナネマブ(ケサンラ®) という、アミロイドβを取り除く 「疾患修飾薬」 が登場し、早期アルツハイマー病の治療パラダイムが大きく変わりました。当院は ケサンラ®の投与可能施設 として登録されています。
4. ② 脳血管性認知症
脳梗塞・脳出血・小さな脳血管病変(白質病変・ラクナ梗塞)の積み重ねによって、脳への血流が部分的に途絶し、認知機能が低下する病態です。高血圧・脂質異常症・2型糖尿病・心房細動・喫煙が主な背景です。
🩺 気づきポイント
- 階段状に進行する(ある日を境に急に変わる、しばらく安定、また悪化…の繰り返し)
- 障害された脳の部位によって症状が異なる(まだら認知症と呼ばれていた所以)
- 記憶よりも 判断力・遂行機能・歩行・嚥下の障害が前に出やすい
- 感情失禁(些細なことで泣く・怒る)、抑うつが目立つ
- 手足の麻痺・しびれ・構音障害を伴うことがある
⚠ ここが重要:脳血管性は「予防できる認知症」
高血圧・脂質異常症・糖尿病・心房細動の治療と、禁煙・節酒は、新しい脳卒中を防ぎ、認知症の進行を緩める最も確実な手段です。アルツハイマー型と 混在することも多く(混合型)、生活習慣病の管理は両方に効きます。
5. ③ レビー小体型認知症
α-シヌクレイン という異常タンパクが「レビー小体」として神経細胞内に蓄積する病気です。パーキンソン病と同じ仲間(シヌクレイン病)で、症状にも重なりがあります。
🩺 4つの特徴
- 認知機能の動揺──しっかりしている時間と、ぼんやりしている時間が日や時間でゆれる
- 幻視──「部屋に知らない子供がいる」「猫がいる」など、本人には鮮明に見える
- パーキンソン症状──手の震え、動作緩慢、筋肉のこわばり、小刻み歩行、転倒しやすさ
- レム睡眠行動異常症──夢の中の動きを実際に行う(寝言で叫ぶ・手を振り回す)。発症の何年も前から出ることが多い
⚠ 薬剤への過敏性に要注意
レビー小体型では 抗精神病薬 に対して強い過敏反応を示すことがあります。「幻視がある」と聞いて統合失調症の薬を不用意に使うと、急激に状態が悪化することがあるため、必ず神経内科専門医にご相談ください。
6. ④ 前頭側頭型認知症
前頭葉・側頭葉の神経細胞が選択的に脱落するタイプで、記憶障害よりも先に「人格・行動の変化」「言葉の障害」が前面に出ます。比較的若い世代(50〜60歳代)でも発症することがあり、若年性認知症の重要な原因のひとつです。
🩺 気づきポイント(性格と行動の変化)
- 感情コントロールができなくなる(怒りっぽい/無関心)
- 社会的なルールが守れなくなる(万引き・信号無視・割り込みなど)
- 同じ行動を繰り返す(決まった時間に同じ場所に行く・同じ物ばかり食べる)
- 言葉が出にくくなる、言葉の意味がわからなくなる(意味性認知症)
- 「久しぶりに会ったら性格が変わっていて驚いた」というご家族の言葉が典型的
⚠ 「うつ病」や「性格の問題」と誤認されやすい
記憶は比較的保たれるため、心療内科・精神科で長くうつ病として治療されてから、診断が変わることがあります。「物忘れより、人柄が変わった」がご家族の主訴であれば、ぜひ神経内科でのご評価を。
7. 混合型認知症と若年性認知症
実臨床では、認知症の原因が 1つに絞れないこと の方がむしろ多いのが現状です。アルツハイマー型 + 脳血管性 + レビー小体型、と 2〜3つの病態が同時に進む「混合型」 は、高齢者ではむしろ標準的と言ってよいほどです。
また、65歳未満で発症する認知症は「若年性認知症」 と呼ばれ、原因疾患の内訳が高齢発症とは異なります(前頭側頭型・脳血管性・アルコール性・若年性アルツハイマー型などの割合が増えます)。働き盛り世代では仕事のミスや人格変化として現れることが多く、家族や職場が最初に異変に気づきます。
8. MCI(軽度認知障害)──認知症の手前で見逃さない
MCI(Mild Cognitive Impairment:軽度認知障害)は 「認知症ではないが、年相応より明らかに認知機能が低下している」 段階です。記憶はやや弱いが日常生活は自立、というイメージです。
🌱 なぜ MCI が重要なのか
- MCI からアルツハイマー型認知症へ進行する人は、年間 5〜15% 程度
- 一方で 10〜20% の人は MCI が改善・正常化する
- 生活習慣(運動・食事・睡眠・社会的交流)の介入で進行を遅らせられる
- 抗アミロイドβ抗体薬(レケンビ®/ケサンラ®)の最大の効果が見込める段階
当院では MCI の段階から、認知機能評価・血液検査・頭部画像・必要に応じた専門医療機関への紹介を組み合わせて評価しています。早期発見できれば、できることの幅が広がります。
9. 4タイプ比較表で一目で見る
| 項目 | アルツハイマー型 | 脳血管性 | レビー小体型 | 前頭側頭型 |
|---|---|---|---|---|
| 先に出る症状 | 新しい記憶の低下 | 遂行・歩行・気分 | 幻視・パーキンソン症状 | 人格・行動の変化 |
| 進み方 | 緩徐進行 | 階段状進行 | 動揺しながら進行 | 比較的早い進行 |
| 主な原因物質 | アミロイドβ/タウ | 血流障害 | α-シヌクレイン | タウ/TDP-43 |
| 主な治療 | 対症薬+疾患修飾薬(レケンビ®/ケサンラ®) | 再発予防(降圧・脂質・抗血栓) | ドネペジル・パーキンソン治療 | ケア・環境調整中心 |
| 特に避けたい薬 | 抗コリン薬(過量) | 過度な降圧(低血圧) | 抗精神病薬(過敏) | ベンゾジアゼピン |
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11. よくあるご質問(FAQ)
Q1. 親の物忘れがどのタイプの認知症か、家庭で見分けられますか?
A. 完全に見分けるのは難しいですが、「何が一番に変わったか」がヒントになります。新しい記憶 → アルツハイマー型、性格 → 前頭側頭型、幻視・夢の中の動作 → レビー小体型、急な変化+手足の症状 → 脳血管性、を疑います。診察では問診・認知機能検査・頭部画像・必要に応じて専門医療機関でのアミロイド検査を組み合わせます。
Q2. 家系に認知症の人がいると遺伝しますか?
A. ごく一部の 家族性アルツハイマー病(プレセニリン1/2、APP遺伝子変異)や家族性前頭側頭型では遺伝が関与します。しかし大多数は遺伝で決まるものではなく、APOEε4遺伝子のように「リスクをやや高める」程度の関与です。生活習慣の影響の方がはるかに大きいと考えてください。
Q3. 「認知症かもしれない」と本人が嫌がります。どう受診を勧めれば?
A. 認知症という言葉を出さずに、「健康診断のついでに頭の働きもチェックしてもらおう」「最近頭痛が多いし神経内科に行こう」など、別の入口でお誘いするのが現実的です。当院は内科・神経内科・頭痛外来・心療内科を併設しているため、複数の入口を選べます。
Q4. レビー小体型を疑うとき、薬の選び方で気をつけることは?
A. レビー小体型では 抗精神病薬(メジャートランキライザー)への過敏性があり、不用意に使うと急激な悪化を招きます。睡眠薬・抗精神病薬を始める前に、必ずレビー小体型の可能性を担当医にお伝えください。当院でも処方は神経内科が責任を持って判断します。
Q5. 認知症と診断されたら、もう治療はないのですか?
A. いいえ、できることは多くあります。アルツハイマー型・MCI 段階なら ケサンラ® やレケンビ®という疾患修飾薬が選択肢になります。脳血管性なら再発予防、レビー小体型ならパーキンソン治療と認知機能薬、どのタイプでも生活習慣・社会的交流・ケア環境の調整が進行を緩めます。診断は「終わり」ではなく、最適な戦略のスタートです。
🔁 3軸クロスポイント:認知症のタイプを「糖尿病」「抗加齢」の視点でとらえる
当院は「糖尿病×認知症×抗加齢」の3軸クロス診療を理念に掲げています。認知症のタイプを知ることは、単なる分類ではなく「どの生活習慣の介入が効くか」を決める出発点になります。
🩸 軸1: 糖尿病・生活習慣病との関連
🧠 軸2: 認知症・神経系との関連
🌱 軸3: 抗加齢医学・健康寿命
執筆|五良ファミリークリニック センター南 院長 篠原 伸顕(神経内科・頭痛外来担当)
編集|医療法人社団 正友会 理事長 五藤 良将
五良ファミリークリニック センター南/竹内内科小児科医院/五良会クリニック白金高輪
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