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認知症の原因疾患と治療可能なTreatable dementia

[2025.07.05]
 
 
TREATABLE DEMENTIA · HUB ARTICLE

治療で改善できる認知症(Treatable dementia)
〜見逃したくない認知機能低下の原因〜

神経内科専門外来を担当する院長 篠原 伸顕(神経内科・頭痛外来担当)が、認知機能低下の原因疾患を整理し、その中でも 治療で改善が期待できる「Treatable dementia」 を疾患別に解説します。脳神経内科外来のハブ記事です。

正常圧水頭症 慢性硬膜下血腫 甲状腺機能低下症 薬剤性

― 院長より、はじめに ―

「最近、急にぼーっとしてきた」「歩き方がおかしい」「物忘れがどんどん進む」──ご家族の不安は、よくよく聴くと 「アルツハイマー型認知症ではない可能性」 をはらんでいることがあります。

結論からお伝えします。認知症の原因のなかには「治療で大きく改善する病気」が一定数含まれており、これを Treatable dementia と呼びます。正常圧水頭症・慢性硬膜下血腫・甲状腺機能低下症・ビタミン欠乏・薬剤性・うつ病による仮性認知症などです。

本記事では、認知症全体の原因マップを整理したうえで、代表的な Treatable dementia をひとつずつ「気づきポイント」「検査」「治療の見通し」の順で解説します。「アルツハイマー型と決めつけずに、まず一度、神経内科で確認する」ことが、ご家族にできる最も大きな貢献です。

1. Treatable dementia とは──「治る認知症」がある

Treatable dementia とは、原因疾患を治療することで、認知機能の低下が改善・もしくは完全に回復しうる認知症(あるいは認知症様の状態)のことです。歴史的には認知症全体の 5〜15% 程度を占めるとされており、現代でも実臨床で見逃したくない領域です。

📊 なぜ最初の鑑別が重要なのか

  • 正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫は 手術で大きく改善 しうる
  • 甲状腺機能低下症・ビタミンB12欠乏は 補充療法 で正常化しうる
  • 薬剤性は 原因薬の減量・中止 で回復しうる
  • うつ病による仮性認知症は 抗うつ療法で改善する
  • これらを見落としたまま「年のせい」「アルツハイマーかも」と放置すると、治せる病気を治さないまま進行させてしまう

2. 認知症の原因疾患を全体図で見る

認知症の原因は大別すると下のように整理できます。太字=Treatable(治療で改善が期待できるもの) です。

大分類 代表疾患
変性疾患 アルツハイマー病、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、嗜銀顆粒性認知症、正常圧水頭症
脳血管障害 慢性硬膜下血腫、脳梗塞、脳出血
感染症 髄膜脳炎、神経梅毒、HIV関連認知症
腫瘍 脳腫瘍、血管内リンパ腫
内分泌・代謝 甲状腺機能低下症、低血糖症、ビタミンB12/葉酸欠乏、高アンモニア血症、尿毒症、肝性脳症
薬剤性 抗ヒスタミン薬・抗コリン薬・抗精神病薬・ベンゾジアゼピン・メトトレキサート・H2受容体拮抗薬など(必ず認知症を起こすわけではありません)
精神疾患・依存 うつ病(仮性認知症)、アルコール依存

これらすべてが Treatable とは限りませんが、太字部分は治療で大きく改善する可能性があるものです。神経内科の初診では、これらをスクリーニングすることから診療が始まります。

3. ① 正常圧水頭症(NPH)──3徴に気づけるかが分かれ道

特発性正常圧水頭症(iNPH)は、脳脊髄液の循環不全により脳室が拡大し、認知機能・歩行・排尿の障害を起こす病気です。頭部画像で診断でき、シャント手術で大きく改善することがある代表的な Treatable dementia です。

🩺 NPH の3徴

  • 歩行障害──小刻み・すり足・足が床に張り付くような歩き方(最も早く目立つことが多い)
  • 認知障害──注意力低下・遂行機能低下が中心。記憶障害は比較的軽い
  • 尿失禁──切迫尿意・我慢できない(病期がやや進んでから)

頭部MRI/CTで 脳室の不均衡な拡大狭隘なシルビウス裂 を確認。タップテスト(脳脊髄液を一部抜いて症状が一時改善するか)で診断的治療が行えます。

💡 「歩き方が変わった→物忘れ」の順に注目

アルツハイマー型は 記憶 → 判断 → 歩行 の順に出ることが多いのに対し、NPH は 歩行 → 認知 → 排尿 の順番が典型的です。「歩き方が変わってから物忘れが目立つようになった」というご家族の証言は、強い NPH 疑いです。脳神経外科への紹介によりシャント手術を検討します。

4. ② 慢性硬膜下血腫──「最近の頭の打撲」を見逃さない

軽い頭部打撲(時には本人も覚えていないほどの軽傷)の 1〜3か月後に、硬膜の下にゆっくり血腫がたまり、脳を圧迫することで認知機能の低下・歩行障害・片麻痺などを起こします。高齢者・抗血栓薬内服者・アルコール多飲者に多くみられます。

🩺 気づきポイント

  • 急に物忘れが進んだ(数週間〜数か月の経過)
  • 片側の手足に力が入りにくい、ふらつく
  • 頭重感・頭痛・吐き気を伴う
  • 最近、転倒・頭の打撲があった(本人が覚えていなくてもOK)
  • 抗凝固薬(ワルファリン、DOAC)や抗血小板薬を内服している

⚠ ここが重要
頭部CT/MRI で診断は一瞬で確定します。穿頭ドレナージという比較的小さな手術で 劇的に改善することが多い疾患です。「急に変わった認知症は、まず CT/MRI」が鉄則です。

5. ③ 内分泌・代謝(甲状腺・ビタミン・電解質)

血液検査でわかる原因は、初診時にスクリーニングできる「最も拾いやすい Treatable dementia」です。

🦋 甲状腺機能低下症

無気力・寒がり・徐脈・体重増加・抑うつとともに、認知機能の低下が前面に出ることがあります。TSH/FT4 で確認、レボチロキシン補充で改善。

💊 ビタミンB12欠乏

高齢者・胃切除後・PPI長期内服者・厳格なベジタリアンに多い。手足のしびれ・歩行障害を伴うことも。血中B12測定で確認、注射またはメコバラミン経口で改善。

🍃 葉酸欠乏

アルコール多飲者・偏食・抗てんかん薬使用者で起きやすい。血中葉酸測定で確認、葉酸補充で改善。

🍯 低血糖症

糖尿病治療中(特にスルホニル尿素薬・インスリン使用者)の隠れ低血糖が、認知機能低下・転倒・夜間せん妄として現れることがあります。HbA1c だけでなく自宅での血糖変動も確認。

💧 電解質異常

低ナトリウム血症(SIADH・利尿薬など)、高カルシウム血症(副甲状腺機能亢進症・悪性腫瘍)は意識障害・認知低下の原因。血液検査で発見可能。

🩺 腎・肝不全による脳症

高アンモニア血症(肝性脳症)・尿毒症は原疾患の治療で改善。アルコール多飲歴・腹水・羽ばたき振戦などのサインに注意。

6. ④ うつ病による仮性認知症

高齢者のうつ病は、本人が「気分が落ち込む」と訴えるよりも、意欲低下・物忘れ・判断力低下が前面に出ることが多く、認知症と紛らわしい場合があります。これを 仮性認知症(pseudodementia) と呼びます。

🩺 うつ病性仮性認知症の特徴

  • 「わかりません」「できません」が口癖(アルツハイマーは 取り繕い をしがち)
  • 夕方〜夜に症状が悪化、朝はやや軽い(うつ病の日内変動と一致)
  • 急に始まり、数週〜数か月の比較的速い経過
  • 睡眠障害・食欲低下・体重減少・希死念慮を伴う
  • 抗うつ薬・心療内科的支援で改善

💡 当院は心療内科を併設しています

認知症外来と心療内科を同じクリニックで連携できるのが当院の強みです。「物忘れ外来」と「気分の問題」の両方を1回の受診で見立てられます。詳しくは 新しい睡眠薬の解説記事 も参考にどうぞ。

7. ⑤ 薬剤性の認知障害──「飲んでいる薬」を必ず見直す

高齢者では平均 5〜10種類 の薬を内服している方が珍しくなく、その中に 認知機能を低下させうる薬 が混じっていることがあります。

⚠ 認知機能低下を起こしうる薬(代表例)

  • ベンゾジアゼピン(デパス®、ハルシオン®、エチゾラム、ジアゼパムなど)── せん妄・転倒・依存
  • 抗ヒスタミン薬(第一世代の風邪薬・乗り物酔い薬・抗アレルギー薬)── 眠気・口渇・認知低下
  • 抗コリン薬(過活動膀胱治療薬・腸の動きを止める薬の一部)── 注意力低下・せん妄
  • 三環系抗うつ薬(アミトリプチリンなど)── 抗コリン作用
  • 抗精神病薬(特にレビー小体型では過敏)
  • H2受容体拮抗薬(シメチジンなど)── 高齢者でせん妄
  • ステロイド大量療法── ステロイド精神症状
  • 抗てんかん薬の一部、麻薬性鎮痛薬、抗パーキンソン薬の一部

※ 必ず認知症を起こすわけではありません。多剤併用と高齢で、リスクが累積します。

⚠ 必ずお薬手帳を持参してください
認知症外来では、お薬手帳とサプリメントの全リストを必ず確認します。減らせる薬を整理する 「ポリファーマシー外来」 のような対応が、認知機能改善の最短ルートになることがあります。

8. ⑥ 感染症(神経梅毒・HIV・髄膜脳炎)

頻度は高くないものの、見逃すと回復のチャンスを失う原因群です。

🦠 神経梅毒

日本でも近年 梅毒患者が急増 しており、未治療梅毒からの神経梅毒も再注目されています。RPR/TPHA で確認、ペニシリン治療で改善可能。

🦠 HIV関連認知症

HIV感染が長期間未治療だと中枢神経に及び、認知機能低下を起こすことがあります。抗HIV療法で改善。

🦠 髄膜脳炎(自己免疫性)

抗NMDA受容体脳炎などの自己免疫性脳炎は、亜急性に認知機能低下・けいれん・精神症状を起こします。免疫療法で劇的改善することがあります。

💉 帯状疱疹と認知症

帯状疱疹ワクチン接種者で認知症発症リスクが下がるという報告(BMJ 2023など)も出ています。帯状疱疹ワクチン定期接種の記事もぜひ。

9. 鑑別フロー:どんな検査で見極めるのか

当院の物忘れ外来の 標準的な初診検査 をご紹介します。Treatable dementia を取りこぼさないための「最低限のスクリーニング」です。

①📋 問診・お薬手帳

経過の速さ/頭部打撲歴/薬剤・サプリメント/うつ症状/飲酒歴/家系を確認。

②🧠 認知機能検査

MMSE / HDS-R / 時計描画 / 言語流暢性などで、低下のパターンを評価。

③🩸 採血スクリーニング

TSH/FT4・ビタミンB12・葉酸・電解質・腎肝機能・アンモニア・血糖・HbA1c・RPR/TPHA を含む包括検査。

④📷 頭部CT/MRI

慢性硬膜下血腫・NPH・脳腫瘍・脳血管障害をスクリーニング。連携先の画像センターをご紹介します。

⑤🤝 治療方針の決定

Treatable dementia が見つかれば原因治療。アルツハイマー型疑いなら、必要に応じてアミロイド検査・ケサンラ®/レケンビ®の適応を検討。

⑥🔁 定期フォロー

改善・進行をモニタリング。生活習慣病・睡眠・心療内科併診を一体化して継続的にサポート。

10. 関連ブログ・関連クリニック

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11. よくあるご質問(FAQ)

Q1. 「Treatable dementia」は認知症全体の何割くらいですか?

A. 歴史的研究では認知症と紛らわしい状態の中で 5〜15% 程度とされてきました。「アルツハイマー型と決めつけずに、まず一通りスクリーニングする」価値があるサイズ感です。

Q2. 「急に」物忘れが進んだ場合、すぐに受診すべきですか?

A. はい、強くおすすめします。数週〜数か月で急に進む認知機能低下は、慢性硬膜下血腫・自己免疫性脳炎・電解質異常・薬剤性など、治療可能な原因が背景にあることが多いからです。「ゆっくり進むアルツハイマー」より、はるかに緊急度が高いことがあります。

Q3. 初診で必要な持ち物は?

A. お薬手帳・サプリメントの一覧が最重要です。可能であれば ご家族の同伴を、そして「いつから」「どんな順番で」「どんな症状」が出てきたかを時系列でメモしておいていただけると、診察が格段に進みます。健康診断結果、他院からの紹介状もあれば持参してください。

Q4. 検査の結果、Treatable dementia だった場合の治療はどこで?

A. 当院で完結する治療(薬剤調整・甲状腺補充・ビタミン補充・うつ病治療・心療内科併診など)と、専門医療機関にご紹介する治療(NPHシャント術・慢性硬膜下血腫の手術・自己免疫性脳炎の免疫療法など)の 振り分けを担当します。検査結果と治療方針はその場でご説明します。

Q5. アルツハイマー型が確定したら、もう Treatable とは関係ないですか?

A. いいえ。アルツハイマー型の方でも、追加で薬剤性の影響・甲状腺低下・低血糖などが重なると認知機能はさらに低下します。「複数の原因のうち、治せる部分を治す」ことで、アルツハイマー型の方の生活機能を改善できることは少なくありません。ケサンラ®の対象判定のためにも、Treatable な要因を整理することは必須です。

🔁 3軸クロスポイント:Treatable dementia を「糖尿病」「抗加齢」の視点でとらえる

「治せる認知症」を見つける作業は、当院が掲げる「糖尿病×認知症×抗加齢」の3軸そのものに重なります。

🩸 軸1: 糖尿病・代謝

糖尿病治療中の 隠れ低血糖、甲状腺機能低下、ビタミンB12欠乏、電解質異常、肝・腎機能由来の脳症は、すべて代謝の問題から起こる Treatable dementia です。糖尿病内科を併設する当院では、これらを 一回の血液検査でスクリーニングできます。

🧠 軸2: 認知症・神経系

NPH・慢性硬膜下血腫・自己免疫性脳炎は、神経内科の専門性が要る領域です。画像と症状の 「順番」 を読み解き、適切な専門医療機関への橋渡しまでが当院の役割です。

🌱 軸3: 抗加齢医学・健康寿命

Treatable dementia をひとつでも見つけて治せれば、健康寿命を数年単位で取り戻すことができます。多剤併用の整理(ポリファーマシー対策)、栄養(タンパク質・ビタミン)、睡眠の質、社会参加の維持は、すべて抗加齢医療そのものです。

執筆|五良ファミリークリニック センター南 院長 篠原 伸顕(神経内科・頭痛外来担当)

編集|医療法人社団 正友会 理事長 五藤 良将(日本抗加齢医学会専門医)

五良ファミリークリニック センター南/竹内内科小児科医院/五良会クリニック白金高輪


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