脂質異常症
― はじめに:「コレステロールは少しくらい高くても平気」は本当か ―
「健診でLDLが高めと言われたが、自覚症状はないから様子見」「家系的にコレステロールが高い」「中性脂肪が500を超えていた」――センター南の外来でも、こうしたご相談を毎日のように頂きます。旧名称・浜クリニックの時代から地域に親しまれてきた当院では、内科・糖尿病内科・脳神経内科・心療内科を併設し、脂質異常症を「動脈硬化の全身病」として横断的に診ています。
結論からお伝えします。脂質異常症は「症状が出てから治療する病気」ではありません。何十年もかけて静かに動脈硬化を進め、ある日突然心筋梗塞・脳梗塞・大動脈解離として現れます。一方、適切な管理を続ければ、これらの心血管イベントを20〜50%減らせることが多くの大規模試験で示されています。
本ページでは、動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022(日本動脈硬化学会)に基づくLDL目標値、家族性高コレステロール血症(FH)の見逃し防止、PCSK9阻害薬(レパーサ®/プラルエント®)・siRNA薬(レクビオ®/インクリシラン)、新時代のリスク因子 Lp(a)(リポ蛋白a)、糖尿病・認知症との3軸クロスまで、最新エビデンスに基づいて整理しました。
📖 目次
- 脂質異常症とは?──LDL・HDL・中性脂肪・Lp(a)を整理する
- JAS2022ガイドライン──「リスク別」LDL目標値の決め方
- 診断基準──LDL/TG/HDL/non-HDLの読み方
- 合併症──心筋梗塞・脳梗塞・閉塞性動脈硬化症
- 見逃したくない「家族性高コレステロール血症(FH)」
- Lp(a)──「治療できないリスク」から「治療できる」時代へ
- 食事療法──飽和脂肪酸・トランス脂肪酸・食物繊維
- 薬物療法──スタチン/エゼチミブ/PCSK9阻害薬/siRNA薬
- 中性脂肪が500以上のとき──膵炎リスクとフィブラート系
- スタチンの副作用──筋肉痛・肝機能・糖尿病新規発症
- 当院・センター南の脂質異常症診療の強み
- 🔁 3軸クロスポイント(糖尿病×認知症×抗加齢)
- 関連ブログ・関連クリニック
- よくあるご質問(FAQ)
1. 脂質異常症とは?──LDL・HDL・中性脂肪・Lp(a)を整理する
脂質異常症は、「血液中の脂質(コレステロール・中性脂肪)のバランスが崩れている状態」を指します。かつての「高脂血症」から名称が変わったのは、HDLが低い「低HDL血症」も含むためです。
| 指標 | 通称 | 役割 |
|---|---|---|
| LDLコレステロール | 「悪玉」 | 肝臓から末梢へコレステロールを運ぶ。高すぎると動脈壁に沈着し動脈硬化の主因。 |
| HDLコレステロール | 「善玉」 | 末梢から肝臓へ余分なコレステロールを回収。低すぎるとリスク上昇。 |
| 中性脂肪(TG) | トリグリセリド | エネルギー源。食事・アルコール・肥満で上昇。500mg/dL超は急性膵炎リスク。 |
| non-HDL | 総コレステロール − HDL | LDL以外の動脈硬化性粒子も含む総合指標。JAS2022で重視。 |
| Lp(a) | リポ蛋白(a) | 遺伝で大きく決まる新興リスク因子。高いと心血管・大動脈弁狭窄リスク増。 |
2. JAS2022ガイドライン──「リスク別」LDL目標値の決め方
日本動脈硬化学会の『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022』では、患者さんの心血管リスク(10年間の発症確率)を計算し、それに応じてLDLコレステロールの目標値を個別に設定します。「LDLは何mg/dL未満が目標か?」は、人によって違うのです。
| リスク区分 | 対象 | LDL目標 |
|---|---|---|
| 低リスク | 健常成人(特に若年) | 160未満 |
| 中リスク | 高血圧・喫煙・低HDL等が複数 | 140未満 |
| 高リスク | 糖尿病/CKD/末梢動脈疾患/非心原性脳梗塞 | 120未満(糖尿病で他リスク合併なら100未満) |
| 二次予防 | 冠動脈疾患(心筋梗塞・狭心症既往)/アテローム血栓性脳梗塞 | 100未満 |
| 極高リスク(二次予防の高リスク) | 急性冠症候群/FH/糖尿病+高リスク/冠動脈疾患+脳梗塞 | 70未満 |
💡 「LDLは健診の正常範囲だから安心」は要注意
健診票では「LDL 140未満」が正常範囲と書かれていることが多いですが、これは低リスクの方の基準。糖尿病・腎臓病・心筋梗塞既往がある方では、同じLDL 130でも「未治療」ではなく「目標未達」になります。「正常範囲だから大丈夫」と思い込んでいる方は多いので、必ずリスク区分を確認してください。
3. 診断基準──LDL/TG/HDL/non-HDLの読み方
| 項目 | 脂質異常症と診断される値 |
|---|---|
| LDLコレステロール | 140 mg/dL以上(120〜139は境界域) |
| HDLコレステロール | 40 mg/dL未満(低HDL血症) |
| 中性脂肪(TG) | 空腹時150以上または非空腹時175以上 |
| non-HDLコレステロール | 170 mg/dL以上(150〜169は境界域) |
4. 合併症──心筋梗塞・脳梗塞・閉塞性動脈硬化症
脂質異常症は動脈硬化を介して全身の血管病を引き起こします。LDLが沈着しプラーク(粥腫)を形成、ある日プラークが破綻すると血栓ができて血管をふさぎます。これが急性冠症候群(心筋梗塞・不安定狭心症)や脳梗塞の正体です。
❤ 冠動脈疾患
狭心症・心筋梗塞。LDLが10mg/dL下がると心血管リスクが約20〜25%低下(メタ解析)。
🧠 アテローム血栓性脳梗塞
頸動脈や脳血管のプラーク破綻が原因。スタチンによる脳梗塞二次予防は確立。
🦵 閉塞性動脈硬化症(PAD)
下肢動脈の狭窄で歩くとふくらはぎが痛む(間欠性跛行)。糖尿病合併で進行が早い。
🫀 大動脈瘤・大動脈解離
高血圧と並ぶ重要要因。突然死の原因。Lp(a)高値も独立リスク。
🍔 急性膵炎(TG高値時)
中性脂肪が500mg/dLを超えると急性膵炎リスク。アルコール・暴飲暴食契機に発症。
🧓 認知症
血管性認知症の主要因。脳の小血管が傷つき、白質病変が進行。
5. 見逃したくない「家族性高コレステロール血症(FH)」
家族性高コレステロール血症(FH)は、LDL受容体などの遺伝子変異で生まれつきLDLが高い、日本で約300人に1人の最頻度の遺伝性疾患です。未治療では30〜50代で心筋梗塞を起こすことが多く、早期診断・治療が命を救います。
⚠ FHを疑うサイン
- 未治療LDLコレステロール ≥180 mg/dL(成人)
- アキレス腱の肥厚/黄色腫(手の甲・肘・膝など)/角膜輪
- 家族(特に第2度近親まで)に若年発症の心筋梗塞・狭心症
- 家族に「コレステロールが極端に高い人」がいる
上記2項目以上を満たせばFHが強く疑われます。確定診断には遺伝子検査がありますが、臨床診断でも治療開始可能です。家族のスクリーニング(カスケードスクリーニング)も大切です。
6. Lp(a)──「治療できないリスク」から「治療できる」時代へ
Lp(a)(リポ蛋白a/エルピーリトルエー)は、近年もっとも注目されている新興リスク因子です。大部分が遺伝で決まるため、生活習慣の改善では下がりにくく、長らく「測っても治療できない指標」と思われていました。しかし2024〜2025年、世界中で Lp(a)を直接下げる新薬の開発が進み、状況は大きく変わりつつあります。
📊 Lp(a)の何が重要?
- 独立した心血管リスク因子(特にFH・若年心筋梗塞・大動脈弁狭窄症で重要)。
- 大部分が遺伝で決まる。生活習慣やスタチンでは下がりにくい。
- 日本人ではLp(a) 中央値は約20.88 nmol/Lと海外より低めだが、高値者は同様にリスク高い。
- siRNA薬(lepodisiran など)で約90%以上低下、経口低分子薬(muvalaplin)も臨床試験で大幅低下。実臨床への登場が近づいています。
当院では、若年発症の心筋梗塞家族歴・FH疑い・治療抵抗性の動脈硬化進展例でLp(a)測定を行い、リスク評価に活用しています。「LDLが目標達成しているのに動脈硬化が進む」方は、Lp(a)・残余リスク(残存LDL以外のリスク)の評価をおすすめします。
7. 食事療法──飽和脂肪酸・トランス脂肪酸・食物繊維
LDLを下げる最も大切な食事改善は「飽和脂肪酸とトランス脂肪酸を減らし、食物繊維を増やす」こと。卵やコレステロール含有食品を極端に避ける必要は基本ありません(個人差は要相談)。
| アプローチ | 具体策 |
|---|---|
| 飽和脂肪酸を減らす | 脂身の多い肉・バター・生クリーム・ココナッツオイルを控える |
| トランス脂肪酸を減らす | マーガリン・ショートニング・スナック菓子・揚げ物の頻度を下げる |
| 不飽和脂肪酸を増やす | オリーブ油・なたね油・青魚(サバ・イワシ・サンマのEPA/DHA) |
| 食物繊維を増やす | 大麦・オーツ麦・きのこ・豆類・海藻・野菜・果物 |
| 中性脂肪が高い方 | 糖質・果糖・アルコールを減らす。EPA/DHA摂取と運動。 |
8. 薬物療法──スタチン/エゼチミブ/PCSK9阻害薬/siRNA薬
LDL低下治療は「スタチン → スタチン強化/エゼチミブ追加 → PCSK9阻害薬/siRNA薬」という階段で考えます。リスクが高いほど早期から、より強力に。
| 分類 | 代表薬 | LDL低下幅・特徴 |
|---|---|---|
| スタチン(弱~中) | プラバスタチン/シンバスタチン/フルバスタチン | LDLを15〜30%低下。コストパフォーマンス◎。 |
| スタチン(強) | アトルバスタチン/ロスバスタチン/ピタバスタチン | LDLを30〜55%低下。一次・二次予防の主力。 |
| エゼチミブ | ゼチーア®(エゼチミブ)/ロスーゼット®(配合剤) | 小腸でコレステロール吸収阻害。スタチンへの追加でさらに15〜20%低下。 |
| PCSK9阻害薬 | レパーサ®(エボロクマブ)/プラルエント®(アリロクマブ) | 2週〜4週ごとの皮下注射。LDLを50〜60%追加低下。FH・極高リスクで使用。 |
| siRNA薬 | レクビオ®(インクリシラン) | 年2回の皮下注射でLDLを約50%低下。通院負担が少ない極高リスク向け。 |
| 陰イオン交換樹脂 | コレバイン® | スタチンに上乗せ。便秘・他剤吸収影響に注意。 |
9. 中性脂肪が500以上のとき──膵炎リスクとフィブラート系
⚠ TG ≥500 mg/dL は急性膵炎リスク域
中性脂肪(TG)が500mg/dL以上になると、急性膵炎のリスクが急上昇します。さらに1,000mg/dLを超えると、暴飲暴食を契機にいつ膵炎を起こしてもおかしくない状態。フィブラート系(フェノフィブラート/ペマフィブラート=パルモディア®)、EPA/DHA製剤、糖質・アルコール制限を組み合わせます。
10. スタチンの副作用──筋肉痛・肝機能・糖尿病新規発症
スタチンは長期的にも比較的安全な薬ですが、まれに以下の副作用が問題になります。
- 筋肉痛・筋力低下:軽症は数%、重症(横紋筋融解)はまれ。CK高値で判定。
- 肝機能異常(AST/ALT上昇):可逆的。定期採血で確認。
- 糖尿病新規発症:プラセボより約9%増。心血管予防のベネフィットを大きく上回らないため、リスクの高い方では継続が原則。
- 認知機能への影響:以前心配されていたが、現時点で因果関係は否定的。
11. 当院・センター南の脂質異常症診療の強み
- JAS2022に準拠した個別リスク評価:年齢・性別・喫煙・糖尿病・腎機能・脳卒中既往からリスク区分を計算し、目標LDLを設定。
- FHのスクリーニング:アキレス腱肥厚・黄色腫・家族歴の問診と、必要に応じ遺伝学的検査の連携先紹介。
- Lp(a)・残余リスクの評価:若年心筋梗塞家族歴の方には Lp(a) 測定を提案。
- 動脈硬化の見える化:頸動脈エコー(IMT・プラーク)、ABI(足の動脈硬化)を院内で実施。
- 姉妹院との連携:田園調布・竹内内科小児科医院では訪問診療・AGEs測定、白金高輪・五良会クリニック白金高輪では胃カメラ・大腸カメラ・土日祝対応・2階アンチエイジング外来との連携が可能。
🔁 3軸クロスポイント:脂質異常症を「糖尿病」「認知症」「抗加齢」の視点でとらえる
当院が大切にしている診療思想が、糖尿病×認知症×抗加齢の3軸クロス。脂質異常症は単独の問題ではなく、糖尿病・認知症・全身老化と連動した「動脈硬化」の中心です。
🩸 軸1: 糖尿病・代謝
🧠 軸2: 認知症・神経系
🌱 軸3: 抗加齢医学・健康寿命
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🩺 高血圧(JSH2025)
動脈硬化の3点セット
🩸 糖尿病内科
糖尿病性脂質異常症
🧠 脳神経内科
脳梗塞二次予防の中核
🔍 超音波検査
頸動脈エコーで動脈硬化を見える化
📋 健康診断
脂質異常症の発見窓口
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🏥 五良会グループ 姉妹クリニック
DEN-EN-CHOFU 竹内内科小児科医院
糖尿病内科・AGEs測定・訪問診療
大田区田園調布・多摩川駅/沼部駅。総合内科専門医による生活習慣病診療。AGEs測定で糖化ストレスを見える化。
SHIROKANETAKANAWA 五良会クリニック白金高輪
胃カメラ・大腸カメラ/土日祝診療/アンチエイジング外来
港区・白金高輪駅直結。胃カメラ・大腸カメラ(内視鏡検査)を実施可能。土日祝も診療。2階アンチエイジング外来では、抗加齢点滴・グルタチオン・NMN・プラセンタなど自由診療メニューも提供。
よくあるご質問(FAQ)
Q1. 健診で「LDL 150」と言われました。すぐ薬を飲むべきですか?
A. あなたのリスク区分次第です。糖尿病・脳梗塞既往・腎臓病などがある「高リスク」ならLDL 120未満を目標に薬物療法を検討します。低・中リスクなら、まず3〜6か月の食事・運動・体重改善で経過を見ます。「LDL値だけ」で薬の判断はしません。
Q2. 親が若くして心筋梗塞になりました。私も検査したほうがいい?
A. はい、家族性高コレステロール血症(FH)の可能性があります。男性55歳未満/女性65歳未満で心筋梗塞・狭心症があった家族歴は重要なサインです。LDL/アキレス腱の触診/必要に応じてLp(a)測定・遺伝学的検査の連携を行います。
Q3. スタチンを始めたら筋肉痛が出ました。続けられますか?
A. CK(クレアチンキナーゼ)と症状の程度で判断します。軽症なら同剤の減量・他剤への変更で続けられることが多く、明らかな筋障害があれば一時中止のうえエゼチミブ・PCSK9阻害薬への切り替えも検討します。「スタチンが合わなかった」と決めつける前に、ぜひご相談ください。
Q4. 中性脂肪が600でした。食事だけで下がりますか?
A. 500を超えると急性膵炎リスクのため、食事・アルコール制限と並行して薬物療法を始めることが多くなります。フィブラート系(パルモディア®/フェノフィブラート)・EPA/DHA製剤で、まず1か月以内に膵炎リスク域から脱することを目指します。
Q5. Lp(a)って聞いたことがないのですが、測ったほうがいい?
A. 全員ではありませんが、① 若年心筋梗塞の家族歴 ② FH疑い ③ LDLを目標達成しているのに動脈硬化が進む場合は、生涯1回でも測る価値があります。Lp(a)は大部分が遺伝で決まるため、結果がリスク評価の指針になります。治療薬の開発も進んでおり、近い将来「下げる」選択肢も加わる見込みです。
Q6. 卵やバターは控えたほうがよいですか?
A. 卵は健康な方なら1日1個程度はとくに制限不要、というのが現在の主流見解です。ただしFH・極高リスクの方や、コレステロール感受性の高い方では制限することがあります。バター・脂身の多い肉は飽和脂肪酸が多いため、頻度を見直すことをおすすめします。
Q7. 薬で下げすぎたら何か問題が出ませんか?
A. 大規模研究では、LDLを30〜40まで下げてもとくに有害事象は増えないと報告されています。極高リスクの方ではむしろ70未満、状況により40〜50を目指す方が予後改善につながります。「下げすぎが心配」よりも「届くべきところまで届けてあげる」が現代の方針です。
Q8. 通院のタイミングや検査頻度の目安は?
A. 治療開始直後は4〜8週ごとに採血で効果と副作用(肝・筋)を確認。安定すれば3〜6か月ごとが目安です。当院では頸動脈エコー・ABIなど動脈硬化の経過観察も組み合わせ、「数値だけでなく血管の状態」で判断します。
